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いつも心に「金正恩」を――米朝決裂で改めて考えたい数奇な人物

まあ、どうであれ日本は平和なわけですよ

2019/03/08
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不確定要素は残しておきたい

 複数のメディアで専門家が指摘していますが、朝鮮半島の緊張が緩和されて、韓国と北朝鮮が融合すると、米韓同盟が解消に至る可能性が高く、そうなれば中国・朝鮮半島と緩衝地帯なく直接対峙するのは日本ということになります。日本の一番の利益は北朝鮮問題が解決することなくグズグズと千年一日のごとくああでもないこうでもないとやっていてくれることでもあるので、不確定要素は残しておきたい、はっきりと解決してほしくないという意見もないでもありません。もちろん、千年一日問題が続くということは金王朝も千年続くということで、それはそれで面白世界史マターではあるわけですが。

 それにしても、金正恩さんというのは数奇な人物で、まあそりゃあ北朝鮮の経済はボロボロだと言いつつ建国の祖父・金日成、父・金正日と三代に渡る金王朝を堂々と継続、また「まさお」の愛称でも親しまれた実兄の金正男さんを毒殺してまで体制の維持、安定を進めているという、ある種のリアリズムの体現者でもあります。

ハノイにて、厳重に警備される金正恩委員長の車両 ©getty

まあ、どうであれ日本は平和なわけですよ

 一歩間違えばクーデターや暗殺の恐怖と隣り合わせの生活を送る中で、平穏な日々を過ごすこともまたむつかしい状況ではないかと思うわけですよ。普通の神経の持ち主なら、不安とストレスとで精神的に潰れかねない状況の下、なんとなく血色良く小太りの状態をキープしてトランプさんと笑顔で飯を喰っているのを見ると「ああ、金正恩さんも必死なんだろうけど頑張って持ちこたえているんだな」と思うのです。

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 翻って、私たち日本人の生活では、普通に暮らしていて明日部下に殺されるという危機に直面することはあまりありません。黒光り官邸のガースーこと菅義偉官房長官がアベちゃんに反旗を翻してクーデターが発生するということもないですし、自衛隊内で徒党を組んだ青年革命団がテレビ局を占拠して立て籠もるような事件も起きません。たまに溜池山王にある実家に帰るとデモ隊が官邸前にやってきて何か騒いでいるのを見かけますが、取り立てて近所迷惑以上のことはなく夜には静かになります。

 まあ、どうであれ日本は平和なわけですよ。

日本は平和ですよ ©iStock.com