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指名を取れるか否かは“見た目”がすべて

 待機時間はとにかくヒマで、同僚たちはスマホゲームをしたり、中国版LINE「We Chat」で客に営業メールを送ったりしていた。仕事中にテンションを高めないといけないためか、待機中のホストはおしなべてテンションが低く、雑談をする雰囲気はあまりなかった。

廊下で待機しながらスマホをいじるホストたち

 給料は完全出来高制だったが、指名を1回取れれば、約1万4000円の収入になる。学歴や職歴などがない地方出身の若者にとっては、十分魅力的な仕事と言えるだろう。

 出勤時には地下のミーティングルームで点呼を取り、上司から「もっと売り上げをあげろ」などとハッパをかけられる。その後、ヘアメイクやフェイスメイク(いずれも1回300円程度で、自腹)を施し、来客を待つ。指名を取れるか否かは“見た目”がすべてと言っても過言ではないので、みんな真剣に自分を着飾るのだ。

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女性客と談笑する同僚ホスト

 ある時、ミーティングを終えて掲示板に目をやると、顔写真付きで何やら2名のホストについて取り上げられているのを発見した。一見、何か表彰されているのかと思いきや、そうではなかった。文章をよく読むと、次のように書かれていた(文中の名前は仮名)。

◆◆◆

当クラブの「ろくでなし」
“輝かしき業績”(1)


 12月29日、鵬鵬は17号室の室内で客と口論になり、感情を抑えきれずに相手の両ほほをビンタした。客は激昂し、警察と記者を呼ぶよう要求。トニー(※先輩ホスト)が間に入り、5万元(約85万円)の無料券を差し上げることで客をなだめ、事態をおさめた。

 この件については当事者である鵬鵬に1万元(約17万円)の罰金を科し、停職処分として反省を促している。十分に反省したかどうかを見極めた上で、復帰時期を通知する。

分析:当クラブの理念は「お客様尊重」である。スタッフ及び組織の利益の源泉はすべてお客様であり、お客様と衝突するような事態は決して許されない。このような口論やケンカが起きた場合は衝突を避け、進んでリーダーに報告すること。また、他のスタッフに間に入ってもらい、お客様の怒りを鎮めるようにすること。

不適切行為を行ったホストに対する掲示板

◆◆◆

重大な違反者に対しては「面子をつぶして良い」

 問題行動を起こしたスタッフを、見せしめとして掲示しているのである。客に手をあげるようではホスト失格だが、いきなり罰金1万元というのは少々かわいそうではある。客が「記者を呼べ!」と要求したというのも興味深い。できる限り騒ぎを大きくしたいという意図だろうが、日本人にはなかなかない発想だ。

点呼を取ったりマネージャーの話を聞いたりするミーティングルーム。このカベに掲示が張られていた

 こんな張り紙を顔写真付きで掲示されては、ホストは完全に面子まるつぶれ。この事例からわかるのは、重大な違反をした者に対しては、「面子をつぶして良い」という中国社会のルールだ。むしろ、再発防止のためには敢えてつぶさなくてはいけないのかもしれない。