「あなた自身が店にとってトラブル」
ホストクラブの掲示板の書き込みは、さらに続いていた。
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“輝かしき業績”(2)
1月7日、龍龍は接客中にリーダーの指示を誤解し、挑発的な口答えをした。リーダーは龍龍に説明をしたが聞く耳を持たず、周囲の客やスタッフの気持ちを考慮することなく、一触即発の不穏な雰囲気になった。当クラブの責任者がその場に出向き、解決した。
この件について、龍龍に対し罰金3000元を科すことが決定された。
分析:お客様の前では、我々は互いに協力してサービスを提供し、チームとして力を合わせていかなくてはいけない。お客様に対して、気持ち良くサービスを利用して頂く雰囲気作りが必要となる。スタッフの間で対立した際は、まずはリーダーや上層部に報告するのが原則である。
今回の場合、龍龍の行為は極めて劣悪であり、本来なら笑って済ませばいい程度の小さな出来事を、危うく大事件に発展させるところだった。「大きな問題を小さくし、小さな問題を終わらせる」。これはあらゆるトラブルを処理する際の大原則である。
全スタッフへの通知
みなさんが当クラブで働いているのは、トラブルを減らしていくためであり、トラブルを作るためではありません。売り上げをあげてもトラブルがあっては、あなた自身が店にとってトラブルのタネとみられてしまいます。せっかくの売り上げも大きく損なわれ、自分自身と会社に対して計り知れない損失をもたらすのです。
「ろくでなし」としてあげられた“英雄”たちは、勤務態度を見た上で、掲示を終了します。掲示中に再び重大な規則違反が確認された場合は、上層部に報告し、会社全体で掲示します。
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「あなた自身が店にとってトラブル」「ろくでなし」など、かなり激しい言葉を使って、問題を起こしたホストの面子をつぶしにかかっている。
ミーティングルームではまかない飯(200円ほど実費を支払うが、食べ放題形式で豚の角煮や青菜炒めといった中華料理が並ぶ)を食べることもあり、掲示板は自然と目に入る。だが、ホストたちはこの掲示板にはそれほど注意を払わず、我関せずという雰囲気であった。
日本であれば、職場で格好の話のネタにされそうなものだが、そういうことも特にない。中国人はえてして組織への帰属意識や忠誠心が薄く、良くも悪くも個人主義的な考えが強い。となると、日本の会社やバイト先などでありがちな「嫌われ者をみんなで非難し、仲間の結束を高める」というような構造が生まれにくいのかもしれない。
“さらし者にする”という思想
中国では1970年代頃まで、共産党から敵視された人物は三角帽子をかぶらされ、「反党分子」と墨書されたボードを首から下げて街頭に正座させられる懲罰が与えられた。掟を破った者を人々の前で“さらし者にする”という思想は、今なお消えていないのだ。
重大な違反をしたから張り紙というわかりやすい手法で明確に面子をつぶし、警告する。素行の悪い高校生に対して「停学処分」を与えるのと近いかもしれない。中国人にとっては、「ダメなことは明確にダメ!」と言われるほうが、分かりやすいのだろう。
一方、日本人上司がやりがちなミスは、些細なことでみんなのいる前で注意を言ってしまい、「面子をつぶされた」と被害者意識を持たせてしまうパターンだろう。彼らからすると、“量刑”が釣り合っていないのである。中国人との付き合いでは「面子をつぶしてはいけない」のではなく、「面子をつぶす時は明確に」。こんな風に考えても良いのかもしれない。
写真=西谷格