天皇皇后両陛下は3月25日から京都府と奈良県を訪問されている。26日には、4月30日に退位することの報告をなさるため、神武天皇山陵に参拝された。美智子さまは、平成に入ってから陛下と共に各地を訪れられ、ご訪問先の土地柄や目的に合わせて、お召し物の色やデザイン、素材選びに細やかなご配慮を見せられてきた。
春めいてきた気候にふさわしい桜色のスーツ
約1カ月前、2月24日に開催された「天皇陛下御在位30年記念式典」で美智子さまがお召しになっていたスーツはとても素敵で、その日のご様子をテレビで拝見していた私は、「これは一つの『終着点』とも言えるデザインなのではないか」と思ったくらいだ。近年お作りになったお召し物のようだ。
春めいてきた気候にふさわしい桜色のスーツは、見る人に柔らかな印象を与えただろう。私が最も注目したのは、首元のデザインだ。立ち襟のようなカットが美しく、首筋にすっとフィットしている。さりげないが、高度な技術に裏打ちされたディテールであることは、間違いないと思う。
美智子さまと言えば、ラグラン袖でケープ風のスーツをお召しになったお姿を思い浮かべる人が多いと思う。今回も同じスタイルで、お色ともマッチした女性らしい雰囲気が伝わってくるのだが、この首元のデザインによって、シャープさとスタイリッシュな雰囲気を演出されている。
この日、天皇陛下はおことばで「平成が始まって間もなく、皇后は感慨のこもった一首の歌を記しています」と、美智子さまの御歌を引用された。
ともどもに平(たひ)らけき代(よ)を築かむと諸人(もろひと)のことば国うちに充(み)つ
続けて、「平成は昭和天皇の崩御と共に、深い悲しみに沈む諒闇(りょうあん)の中に歩みを始めました。そのような時でしたから、この歌にある『言葉』は、決して声高に語られたものではありませんでした。しかしこの頃、全国各地より寄せられた『私たちも皇室と共に平和な日本をつくっていく』という静かな中にも決意に満ちた言葉を、私どもは今も大切に心にとどめています」と仰った。お隣にいらっしゃる美智子さまの支えがあってこそ、という感慨をお示しになったように拝察している。
陛下はおことばの途中で、用意された原稿を読み間違えられた場面があった。すぐに気が付かれた美智子さまが「違うんです……」と小さなお声でお伝えになり、陛下は「どうも失礼」と仰って続きを読み進められた。この時、美智子さまは陛下とご一緒に、机の上で正しい原稿の紙を探していらっしゃるようなご様子だったが、お手元も軽やかに動いていらっしゃったので、とっさの時に素早く身動きをとることができるお召し物であることも、図らずして分かったような思いがした。
あまり知られていないことだが、美智子さまはご自身のなで肩をカバーされる意味合いもあって、このようなデザインのスーツをお召しになっているようだ。かつてのお召し物を拝見していると、肩に大きめのパッドを入れていらっしゃるようにお見受けするものもあるが、お年を召されるにしたがってご負担が大きくなりすぎないよう、デザインや素材を工夫して現在のスタイルが形づくられていったのだろう。