先ごろ、アリアナ・グランデが「7つの指輪」のつもりで彫ったタトゥー「七輪」が物議を醸した。実のところ、今のアメリカには表記の正誤を問わず、漢字や日本語のタトゥーが溢れており、もはや珍しいものではなくなっている。

アリアナ・グランデ ©Getty Images

浸透するアジア文化と「目障り」になったアジア系

 ファッション・ブランドも盛んに日本語を取り入れている。イギリスのブランド Superdry はアメリカにも進出しており、街を歩けば「極度乾燥(しなさい)」と書かれたバックパックを背負った若者を見掛ける。少し前にはナイキが「くつろぎクラブ」と書かれたシャツや帽子を売り出していた。

 今のアメリカでは日本製のアニメ、漫画、ゲームが無くてはならないものになっている。ここ数年はK-Popの進出も目覚ましい。意味の通らない日本語や漢字のタトゥーやTシャツは、そうしたシーンから派生した表層的なポップ・カルチャーだと言える。

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 このように日本やアジアのカルチャーが浸透する一方で、アメリカに住む日系人やアジア系の立場は微妙だ。かつてアジア系は存在感の薄い「透明人間」だった。ところが近年はアジア系が社会のさまざまな場所で活躍しており、つまり徐々に目立ち始めている。すると、それを「目障り」に感じる非アジア系アメリカ人も出てきて、アジア系はヘイトクライムの対象にすらなりつつある。本稿では米国における日系人やアジア系の立ち位置の変遷を追ってみたい。

ニューヨークにあるイギリスブランド「Superdry」の店舗 ©Getty Images

高頻度で「君はチャイニーズ?」と聞かれる理由 

 私はニューヨークに住み始めたばかりの頃、道で男性から「ヨー! チャイナ・ドール!」などと声を掛けられることを密かに楽しんでいた。男性が女性に性的な下心を込めてからかいの声を掛ける行為は「キャットコール」と呼ばれ、セクシャル・ハラスメントのひとつだ。だが、親しい友人知人がまだおらず、英語も拙かった時期、とにもかくにも理解できる英語で話し掛けられることが愉快だった。もちろん立ち止まったり、返事をしたりはせず、さっさと歩き過ぎるのだが。

 道ではなく、ドラッグストアのレジの行列などで「君はチャイニーズなの?」と声を掛けられると、これは逃げ場がないため、「ノー」と返事をすることになる。すると「じゃあ、ジャパニーズ? 当たり!? オレ、知ってたよ、君がジャパニーズだって!」と一方的に盛り上がる人もいれば、「違うの? えーと、フィリピン? ベトナム? タイ?」と、思いつく限りのアジアの国名を挙げる人もいた。

 アメリカ滞在が長引くにつれ、こうした会話にも飽きてしまったのだが、気付いたことがいくつかある。まず、アジア系であることは一目で分かっても出自を見分けるのはほぼ不可能だ。かつ在米のアジア系の中では中国系の人口が圧倒的に多い。そこで、まずは「チャイニーズ?」となる。