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「透明人間」から「目障りな存在」に? アメリカにおけるアジア系の今

「文化」は愛されても「人」は愛されているのか

2019/03/21

アジア系がこれまで「透明人間」だった理由

 ちなみに4人とも移民だ。台湾、香港、韓国からそれぞれ子供の時期に移住し、アメリカで教育を受けている。アジア系の移民は極めて教育熱心なことで知られる。

 マンハッタンにあるスタイブサント高校は、ニューヨーク市に400校以上ある公立高校のうち特別入試が行われる上位9校の一つだ。先に書いたようにニューヨーク市のアジア系人口比率は14%だが、同校の生徒の実に74%がアジア系となっている(2016年時点)。同じくマンハッタンにあるラガーディア高校も上位9校に含まれるが、こちらはパフォーミングアート(舞台芸術)に特化した学校で入学選考にはオーディションもある。高い学力も要求されるが、アジア系の生徒の比率は20%まで下がる。

近隣で起きた自動車事故により早退するスタイブサント高校の生徒たち ©Getty Images

 つまりアジア系の生徒は “タイガー・マム” と呼ばれる教育熱心な親に鍛えられて優秀な成績を取り、優れた大学、大学院を経て一流企業への就職に邁進するのだ。大量の優れたアジア系人材はオフィスのドアの向こう側で活躍しており、一般人の目に触れるセレブや政治家には少ない。これがアジア系が「透明人間」であった理由の一つと言えるだろう。

 ちなみに、そうしたアジア系の若者のやるせない心情を見事に映画化した作品がある。『Better Luck Tomorrow』(2002)はカリフォルニアの男子高校生たちが、優等生であるにも関わらずアジア系ゆえに「冴えない」とみなされる生活にうんざりし、事件を起こす物語だ。監督のジャスティン・リンはのちに『ワイルド・スピード』シリーズで名を挙げ、出演俳優からも同シリーズでハン役を演じたサン・カン、『スタートレック』シリーズでヒカル・スールー役のジョン・チョーを輩出している。

アジア系の「顔」がメディアに登場し始めた

 ところが近年、秀でたアジア系の存在が徐々にフィーチャーされ始めた。一時期、IT業界のトップ人材はセレブ扱いとなり、メディア露出が増え、そこにはアジア系の顔が並んでいた。初期にはジェリー・ヤン(ヤフー!共同設立者)、次いでスティーヴ・チェン、ジョード・カリム(共にユーチューブ共同設立者)、そしてペリー・チェン(キックスターター設立者)など。ビジネス界にもアジア系は進出した。ドン・チャン/ジン・スク・チャン夫妻(フォーエバー21共同設立者)、アジェイ・バンガ(マスターカードCEO)、ケヴィン・ツジハラ(ワーナー・ブラザース・エンターテインメントCEO*)などは、日本でも馴染み深い企業の創設者/CEOだ。

*3月18日、ツジハラは不倫関係にあった女優に映画出演の便宜をはかったとして辞任

ヤフー!共同設立者のジェフリー・ヤン ©Getty Images

 こうした「優秀な」アジア系のメディア露出が増えただけでなく、非アジア系アメリカ人の日常生活にも「上司はアジア系」「掛かりつけの医師がアジア系」「弁護士を雇ったらアジア系」といったシーンが増えている。ゆえに、どこからともなく急に現れ始めた、自分より社会的、経済的に上位にあるアジア系が疎ましく、「目障り」に感じる非アジア系アメリカ人が増えているのではないだろうか。