「甲子園出場以上のインパクト」
これらは、昨夏に高校のプロジェクトとして、筑波大学で行われた野球普及の研究会に参加したメンバーを中心に、部員たちが自分で考えたのだという。この日も率先してチームを引っ張っていた福島康太主将はこう語る。
「旧チームの時からやっていてちょうど1年ほど経ったので、だいぶ慣れてきたと思います。少しルールは違うんですけど、筑波大の研究でやっていたものを、簡単にしたり逆に複雑にしてみたり、すこし変化をつけてやっています。監督も『自分たちで(メニューを考えて)やってみたら』と言ってくれたので、自分たちでどういう風にしたらいいのか考えました。この時期は寒いですし、どうやったら動く前に体が温まるのか。園児や小学生がどうやったら楽しめるのか。それを考えてメニューを組みました」
自分たちと年代の違う子どもたちに野球に興味を持たせつつ、コミュニケーションを取りながら楽しく遊ぶというのは、大人でもかなり難易度が高い。それを16歳、17歳の少年・少女がすんなりこなしている姿は、正直甲子園出場以上にインパクトがあった。
肝心の野球の練習をしたい気持ちにならない?
一方で、夢舞台の出場が決まった今くらい課外活動よりも、肝心の野球の練習をしたい気持ちもあるのではないか。そんなことをつい考えてしまったが、福島主将の言葉はそんな邪推を一蹴してくれた。
「普段は高校生が相手じゃないですか。そういう意味ではどんなことでも伝えるのはすごく楽なんです。でも、小さい子たちが相手の時は一発で伝わらなかったり、伝え方によっては相手を傷つけてしまったりする。相手のことを考えるという意味ではすごく勉強させてもらっている気がします。練習の面だけではなくて、やっぱり自分たちが将来、親になった時に小さい子たちにどうやって接すればいいのかを学ぶことができますし、こういう経験は学校では触れ合えない機会なので、すごく貴重だと思っています」
野球の練習だけではなく、それ以外の部分からいかに必要なことを吸収するのか。小さなことに手を抜かず、レベルアップを目指していく。計らずも、この活動を通して米子東躍進の一端が垣間見えたような気がした。
チームを率いる紙本庸由監督も「文武両道」という分りやすいテーマが持ち上げられがちな中で、それ以上に大切な学生たちの「生きる力」については胸を張る。
「学力はともかくとして、社会人基礎力や生きる力という意味ではウチの子たちはすごく高いと思います。自分とは異質なものと交わる力と言うんでしょうか。僕みたいな異分子とも上手くやってくれているし、彼らは社会に出てもやっていけるなと思いますよ――」
23日に開幕したセンバツ高校野球では、2日目に優勝候補の一角である札幌大谷高校(北海道)との対戦が決まった米子東。もちろん試合内容は楽しみだが、勝っても負けても、きっと彼らはその経験を「生きる糧」
高校の部活動というものが持つ本来の意義を感じさせてくれる米子東というチームが、夢舞台で輝くことを期待したい。
■(関連記事)鳥取一の進学校・米子東をセンバツに導いた「超合理的思考法」とは
https://bunshun.jp/articles/-/10511