星野源『恋』、ピコ太郎『PPAP』、『君の名は。』、『シン・ゴジラ』。久々に国民的ヒットと呼べる作品が各ジャンルで続出したばかりという、絶好のタイミングでの刊行と言えるだろう。本書のタイトルは『ヒットの崩壊』だが、それはこれまでのヒットの法則が無効になったことを指摘したもの。冒頭に挙げた作品群は「新しいルール」の中で生まれたヒットであり、本書はその「新しいルール」の解説書的な役割も果たしている。

 著者の柴那典はロッキング・オン社出身の売れっ子音楽ジャーナリスト。小室哲哉、いきものがかりの水野良樹、地上波テレビ音楽番組のディレクター、レコード会社や事務所のエグゼクティブらへの周到な取材を通して、現在のヒットの構造をあぶり出していく。ちなみに00年代以降のロッキング・オン社はそんなヒットの構造の中心にあるフェス・ビジネスにおいて、出版社の枠組を超えて大きな成功を収めている会社だが、同社出身の著者の仕事は、それを理論面で補完するものとも言えるだろう。

 本書の特筆すべき点は、シーンの最前線で活躍するミュージシャンに日常的に取材をしている、音楽業界の内側にいる筆者が、外側に届くことを強く意識して発信しているところ。これまで日本の音楽関連書籍は、内側の人間が内側に向けて書いたマニアックなものと、外側の人間が外側に向けて書いた傍観者的なものがほとんどだった。実際、本書は音楽関係者のみならず、広くマスコミ関係者によく読まれているという。

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 音楽の現場にいる人間なら誰もが思っていることだが、近年、週刊誌や新聞など一般向けのメディアに躍っている「評論家」や「関係者」のコメントは、時代を正確に読めていない滑稽なものばかりだった。音楽業界はその産業規模こそイメージほど大きくないが、「炭鉱のカナリア」的に各業界の先行指標になるとも言われている。だとしたら、このような客観的かつ真摯な仕事が持つ意義は大きい。

しばとものり/1976年生まれ。音楽ジャーナリスト。「AERA」「婦人公論」などの雑誌やWEBで、音楽・サブカルチャー分野を中心に執筆している。著書に『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』がある。

 

うのこれまさ/1970年生まれ。映画・音楽ジャーナリスト。著書『1998年の宇多田ヒカル』、くるりとの共著『くるりのこと』等。

ヒットの崩壊 (講談社現代新書)

柴 那典(著)

講談社
2016年11月16日 発売

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