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“ヒット0本の男"元阪神・西田直斗 目指すはスーツ界のヒットメーカー

文春野球コラム ペナントレース2019

2019/04/02

 マメと内出血でボロボロだった両手は、すっかり綺麗になってしまった。選手として、一抹の寂しさも感じそうな「現実」にもやせ我慢はない。「ホンマに野球に未練とかは全くないんですよね。今はこの仕事を一から頑張ろうと思ってるので」。

 元阪神タイガースの西田直斗さんが第2の人生を歩み出したのは、ユニホームを脱ぐ決意をしてからわずか1カ月後の昨年末。オーダースーツの訪問販売店「Settedieci」(セッテディエーチ)を起業した。

ファンからのメッセージが寄せ書きされたユニホームを手にする西田直斗 ©チャリコ遠藤

“アパレル一家”の長男として歩む第2の人生

 名門・大阪桐蔭出身で、甲子園で春夏連覇を成し遂げた藤浪晋太郎の1学年上。天性の打撃センスを買われて11年のドラフト3位でタテジマに袖を通した。大型内野手として将来の中心選手として大きな期待が集まったものの、1軍ではわずか1試合の出場に終わり、昨年10月に戦力外通告を受けた。25歳と若く「まだまだ野球を続けるべきじゃないか」という周囲の声も少なくなかった中で、11月の12球団合同トライアウトを区切りに、7年間の現役生活に終止符。「仕事を変えるならこのタイミングだな」とグラブとバットを静かに置いて、立ち上がった。

「実は両親もアパレルの仕事をしていて、お姉ちゃんも今、アパレル店で働いてる。僕も服にはずっと興味があって、ずっと野球をできるとも思ってなかったので、いつかアパレル関係の仕事がしたいなと思っていたんです。だから、思いつきとか、そんなんで始めたわけじゃないんですよ」

“アパレル一家”の長男は、現役時代からファッション業界には「仕事」として強い興味を持ち、雑誌、ネットなどで常に最新のトレンドを把握していた。そんな豊富な知識を頼って、中谷将大ら先輩選手からも「にっしゃん、この服どう思う? 俺に似合うかな」と購入前に相談されることも多かったという。当初は、一つの夢だったオリジナルのTシャツブランドを立ち上げる構想を描いていたが「今は、ハイブランドが売れる時代で、オリジナルは相当厳しい」と判断。「スーツなら需要はまだあると思ったので」と冷静な考えでオーダースーツ業界に足を踏み入れた。

 12月に同業者の先輩に弟子入りし、生地屋や縫製工場などを紹介してもらった。採寸の仕方や発注方法などのノウハウも短期間で学び、2月から本格的にオーダー受注を開始。初めて仕事用のスマホが鳴ったのは2月中旬のことだった。保険業界で働くビジネスマンから「仕事でスーツが何着か必要だから、オーダーをお願いしたい」と依頼を受けた。