「スーツ屋」として描く夢
舞い込んできた初仕事。先方と予定を調整すると、愛車を走らせた。今までは球団のユニホームなどで採寸される側だったが、今はメジャーを手に、「測る」側に回っている。新たな商売道具は、グラブやバットの扱いとは勝手が違い「難しいし、やっぱり緊張しますよ。時間をかけたらきっちり測れますけど(お客様には)ずっと立ってもらうので、手際よくやるのも大事なサービス。スムーズにできるようになりたい」と接客の心得を胸に刻み、悪戦苦闘しながら、素早い採寸を心がける。
「発注した時はもちろんですけど、やっぱりスーツが出来上がって“良かった”と言ってもらえた時は一番ですね」。生地の種類を頭に叩き込み、慣れない電卓も叩く毎日に経験したことのない疲労も蓄積してくる。それでも、ヒットやホームランとは違う格別な「喜び」が、商売人としての何物にも代えがたい活力になっている。
今は次々に、オーダーが舞い込んでくることはない。スマホも静かなままだ。「予定は結構、空いてますよ……。お金を稼ぐことがどれだけ大変なことかあらためて分かりましたね」。先輩、後輩、チームメート……プロ7年間で作り上げた太く強い人脈はある。ただ、今はそこに頼りたくない。「野球をやって知り合えた人もいっぱいいますけど、向こうからちゃんと“西田、スーツ作ってや”と言ってもらえるように今は、必死に頑張らないといけないと思ってます」。タイガースの入団会見で初めてユニホームに袖を通した時の“フレッシュマン”としての新鮮な気持ちを再び胸に宿らせて、新たな世界で裸一貫、勝負する。
「スーツ屋」としての夢もできた。「現役の時に移動とか全部スーツだったんですけど、本当に疲れるんですよね。ちょっとでも楽なスーツを野球選手はもちろん、サッカーとかスポーツ選手に着て欲しいなと思ってるんです。営業マンの人でも、車を乗り降りする時にストレッチ素材だと楽だと思うんで。ジャージみたいな楽さで、見た目スーツが理想かなと。だから今、生地屋でもストレッチの素材をめっちゃ探してるんですよ。今もストレッチ素材のスーツもいっぱいあるんですけど、もっと(ストレッチ性が)強くていいと思うんです」。選手時代に感じたことをヒントに、業界に新風を吹かせたい。
スーツを語る表情は真剣で、描いた夢には熱いものがほとばしった。「オーダーでも1着作ったままで終わりたくない。作った後が大事で。手書きで手紙を書いて“秋はこういうのがトレンドですよ”とか。今は全然、無理ですけど、ゆくゆくは、球団の公式スーツを作らせてもらえるようになりたいです。目標は大きく持って、頑張っていきたいです」。
西田直斗だから作れるモノがあるはず。“ヒット0本”の男がスーツ界でヒットメーカーを目指す。
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【西田直斗から文春野球参戦の決意表明】
(仕事で忙しいのに、昔からずっと空気を読めないチャリコ遠藤さんに無理矢理、勧誘されて)文春野球に参戦することになりました! 格好良い文章は書けないですが、僕だから伝えられるタイガースの仲間、先輩、後輩の姿を皆さまにお届けできたらと思います! 僕のコラムのヒット数が伸びなければ、チャリコ(呼び捨て!)に責任を取って、監督を辞めてもらうだけです。僕がどんな人物を取り上げるかも楽しみにしててください!
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