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雪の仙台 ファイターズの新たなチャレンジ「オープナー」に夢を見る

文春野球コラム ペナントレース2019

2019/04/05
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あの雪は長い目で見ればファイターズに味方してくれた

 加藤投手はアウトを取るたびに、グラブを外してそれを脇に挟み、ボールを両手でぎゅっ、ぎゅっとしながら手に息を吹きかける。ロジンバッグをたくさん使う姿から「ロジンの妖精」なんて言われていることもあった加藤投手が今日は真っ白い雪の中にいる。結局、3回1安打無失点46球で降板して、4回からはバーベイト投手がマウンドにあがる。

真っ白い雪の中にいる加藤投手 ©斉藤こずゑ

 半袖……ねえ、バーベイト、どうして半袖……もう自分が凍えそう……なんて言ってる場合じゃなかった。そう、これがファイターズの新しいチャレンジ、新オープナーを試した瞬間だった。メジャーリーグのオープナーは本来中継ぎの投手が先発し2回以降に先発投手に引き継ぐものだけど、ファイターズが試みたのは「ショートスターター」とも呼ばれる先発投手に3回を任せ、次も先発タイプの投手が3イニングを投げる、2人の先発投手を起用する「1試合2先発制」のアレンジバージョン。

 最初、寒さと中断の影響もあるのかもと思っていたけど、試合中の木田ピッチングコーチから発表になったコメントに「加藤の3回で交代は予定通り」とあって確信した。結果、バーベイト投手1失点で、2人で6回を1失点に抑えることとなる。その後のリリーフ陣が得点されたのと打線の沈黙で敗戦とはなったけれど、次の日のスポーツ紙には「合格」の文字も躍った。監督のコメントは「常識を疑って新しいものが生まれるはず」。

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 前々から栗山監督の口からは「工夫」という言葉もよく聞かれる。苦しい時には工夫が生まれる、ピンチは何か工夫をしなさいというメッセージ。マルティネス投手の離脱がこのアイデアを実行に移すきっかけになったのかなと思う。右腕の痛みで調整中のマルティネス投手は順調ならこの日の先発を務めただろうから。そして、チャレンジするのがこの日でよかったなと思う。

 加藤投手は雪中断の後も調子が良かったから、新アイデアを試す予定がもしなければいけるところまで投げていただろう。そうするとあの気温の低さで起きてはいけないことが起こったかもしれない。「手袋ください」も「ダウン着ていいですか」も、もちろん「寒いのでもう嫌です」も言えないのだから。

 試合には負けてしまったけれど、あの雪は長い目で見ればファイターズに味方してくれたんだと私は受け止めた。後はこれを続けるのなら、この起用法となる投手のモチベーションが少し気になるだけだ。でもきっとそれはチームがクリアしてくれていることだろう、私の心配なんかまったくいらない筈だ。

 あーーー、あとは。楽天さん、屋根を付けるご予定はないでしょうか。いつもとは言いません。こういう時だけ、観覧車の上からスパイダーマンのクモの巣みたいにひゅーーーーーっと出てきてバサッとかかる、終わったらひゅーーーーっと戻る保温性も抜群の屋根とかないんでしょうか。楽天さんだったら、そういうことも出来ないんでしょうか。ねえ、楽天さん……。

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