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「あれだけ飛ばすのは松井秀喜以来ですよ」

 モタの一芸は規格外れの飛距離だ。

 2月の沖縄キャンプでは、フリー打撃で沖縄セルラースタジアムのバックスクリーンを直撃する特大アーチを放つと、その後の宮崎のひむかスタジアムでも場外弾を連発。2軍の公式戦開幕直後のジャイアンツ球場での打撃練習では、打球がバックスクリーン横の電光掲示板を直撃。しかも4番の名前部分を破壊するというマンガのような離れ業も見せている。ちなみにジャイアンツ球場の電光掲示板直撃弾は、阿部慎之助捕手と岡本和真内野手と巨人の4番打者を務めた2人のバッターが放った過去がある。モタがそのレジェンドたちに加わる一撃でもあったわけだ。

「とにかく日本人であれだけ飛距離を持っている打者はなかなかいないと思います。打撃練習でも、あれだけ飛ばすのは松井秀喜以来ですよ」

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 実はモタは2017年のトライアウトで「まだ身体ができていなくて線が細かった」(大森課長)と1度、落選している。それからドミニカの社会人野球で野球を続けながら浪人生活を送り、トレーニングを積んで188センチ、98キロまで身体を作り上げて昨年のテストに再挑戦して入団にこぎつけた。浪人中には日本のアニメにハマって「ワンピース、ナルト、ドラゴンボール、七つの大罪……。みんな面白いしとてもいいです」とオタクぶりを披露。同時にラーメンにカレーライスなど日本の食事も大好物と日本文化に溶け込む速度も急ピッチだ。

 3月31日のロッテとの2軍戦では「7番・指名打者」で先発すると、9回には待望の公式戦初アーチとなる2ランも放っている。

「とにかくドミニカの選手はハングリー。モタも『金はいいからチャンスをくれ』と年俸ではなく成功を夢見て日本にやってきた。何か秀でた一芸がある上に、そういうハングリーさがあるからこれから(ドミニカの選手は)どんどん出てくると思います」

 大森課長は確信的にこう語り、言葉通りにメルセデスはベンチ前で必死に投げ続けてしまうのである。

来日しユニフォームを着てポーズをとるイスラエル・モタとレイミン・ラモス(右)

ドミニカ共和国から始まった巨人の一芸補強

 実は一芸補強は、巨人にとってドミニカ人だけの話ではないはずなのである。

 直近の巨人の黄金時代といえば2007年と2012年からそれぞれ始まった2度の3連覇の時期だった。最初の3連覇には小笠原道大内野手とアレックス・ラミレス外野手がいた。2度目の3連覇は阿部慎之助捕手の全盛期だった。

 ただ、そのときチームを下支えしていた脇役には、同じように「一芸に秀でる選手を」という方針の下に、育成枠で獲得した松本哲也外野手や山口鉄也投手という選手たちがいたのである。

 2011年にいわゆる「清武の乱」が勃発。一芸補強を掲げた清武英利元代表が去ったことで、そうした下支えの補強が途切れた。そのこともその後の低迷の隠れた一因だった、と言えるのかもしれない。

 遠くドミニカ共和国から始まった巨人の一芸補強はチームにどんな変化をもたらすのか。大型補強と同時に「育成の巨人」と言われた2000年代から2010年代前半のチーム編成を取り戻すことは、巨人ファンにとっても心からの夢であるはずだ。

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