4月4日の東京ドーム。試合前に評論家の権藤博さんと話をしていたら、権藤さんならではの面白い視点で前日の試合のポイントを教えてくれた。
「あれはねえ、ベンチが止めてやらんといけないんですよ」
こう振り返ったのは3日の阪神戦で先発した巨人のCCメルセデス投手のある行動だった。4対0とリードした7回裏の巨人の攻撃。2死から阪神投手陣の乱調につけ込み、3つの四球に岡本和真内野手の二塁打で2点を追加した。
そのときのベンチ前での出来事である。
「4点差が6点差になって、もう『よっしゃー』って感じですよ。いきり立ったようにベンチの前で投球練習していましたから。50球近く投げたんじゃないですかね。これは危ないぞ、と思っていたんです」
そう。2死になったのでベンチ前に出てきたメルセデスが、8回のマウンドに備えてウォーミングアップをしていたのだ。ただ、そこから四球、四球、四球で二塁打である。かなり長い時間、メルセデスはマウンドではなく、ベンチの前で投げ続けた。
「しかも軽くヒューっと投げていればいいけど、ああいうタイプのピッチャーは、そうはできない。あれじゃあ疲れますよ。あそこはベンチが『おとなしく座っとれ』と言ってやらないと」
権藤さんが危惧したように8回のメルセデスは、途端にボールが高めに浮いて5安打を浴び3失点。完投ペースだったが、ベンチ前で完投分を投げ切って、8回で降板という憂き目にあった。
それでも8回で113球を投げての今季初勝利。力のあるところはしっかり見せて、白星で今季の第一歩を踏み出した訳である。
メルセデスの獲得をひと目で決めた理由
「1次テストで良くて、2次のテストではリキんでボールがあっちこっちに散らばってまったくダメでした。でも、実は1次テストで見た瞬間に獲ることは決めていたんです」
こう振り返ったのは外国人選手の獲得を担当する大森剛国際部課長だった。
メルセデスが日本にやってきた経緯は、すでにかなりのメディアで紹介されている。ドミニカ共和国で行なったテストで見出されて、育成契約の年俸200万円強で巨人に入団。そこから這い上がって、いまや1軍投手陣の柱の一人となった。
ただ、なぜメルセデスだったのか?
入団テストの試験官だった大森課長はひと目で獲得を決めた理由をこう説明する。
「中南米の投手って地肩の強さを頼って上半身で投げるタイプばかりなんです。でもメルセデスは最初に見たときに、右肩の使い方が非常に印象的でした。右肩が全然、開かないで我慢できる。これなら日本に連れていって色々なことを教えれば、勝てる投手になれると思った。ひと目、投げ方を見て決めました」
3日の阪神戦でも球速は140キロ前後。来日当初はブルペンの投球を見て「ボールが速くない」と酷評された。ただ、テンポのいい投球スタイルと、何より右肩が開かないので真っ直ぐもカット気味に強烈に動いて曲がり、スライダーのキレも鋭い。
オーバーではなく1軍で勝つのには、それで十分だった。
「せっかく育成で獲るなら、こぢんまりまとまった選手なんて獲る気は全くないですね。何か特別に光るものがある。一芸に秀でた選手がいないか。見ているのはそこだけです」
大森課長は言う。
その視点でドミニカ共和国のテストを経て育成契約したサムエル・アダメス投手やホルヘ・マルティネス外野手も支配下登録されて一軍出場を果たしている。
そして大森課長が一押しなのが、昨年のドミニカ共和国でのテストで獲得を決めた二人の選手の一人、イスラエル・モタ外野手なのである。