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積み上げる糸子とブチ壊す鈴愛

 鈴愛に悪気がないのは分かるんです。彼女の良いところは他人を蹴落とそうとか陥れようとは一切せず、猪突猛進とも言える体勢で目的に向かって突き進むところ。ですが、世の中には自分と違う価値観や常識で生きている人間がいることを理解しようとはせず、感情が高ぶると強い負のエネルギーを相手にガンガンぶつけてしまう。

『半分、青い。』のヒロイン・楡野鈴愛を演じた永野芽郁 ©AFLO

『カーネーション』の糸子も言葉遣いは鈴愛に負けず劣らず荒っぽいし、負けん気も強い。さらにこれと決めた目的には全力で突き進む。一見ふたりは似ているのに、受ける印象はほぼ真逆……。積み上げる糸子とブチ壊す鈴愛。

 この、ふたりの違いは「人としての成長」にあるんじゃないかと思うのです。

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 糸子の前に“理不尽”の象徴として立ちはだかる「お父ちゃん」や男尊女卑の社会。それを彼女は地道な努力で結果を出すことにより超えて行きます。男性ばかりのパッチ屋での修業でも、飛び込み営業から始まったデパートの制服納品でも、お父ちゃんから受け継いだ洋装店の経営でも。

 だけど鈴愛からはそういう成長が感じられなかった。理不尽なことには毒を吐き、先の見えない生活から抜け出すために、出会って数日の相手と結婚。離婚し、岐阜の実家に帰ってからは親が旅行代金にと貯めた蓄えでカフェを開き、娘にスケートを習わせるため、はったりをかまして就職。そしてふたたび東京へ。

なぜこうまでザワつくのか

『半分、青い。』のオンエア当時、鈴愛の「成し遂げられない姿」をリアルに感じ、彼女の率直さに共感する人が大勢いたのもわかります。だけど私はダメだった。週に6日、毎日15分見続ける朝ドラで、30代、40代になっても10代のままのテンションで突っ走り、積み上げるより傷つけ壊すことの方が多いヒロインに心を添わせることはできなくて。

『まんぷく』で夫・萬平を支え続けた安藤サクラ ©文藝春秋

 じゃあ、どうしてお前は最終回まで毎日『半分、青い。』を見続けたのか……そう問われたらこう答えると思います。「鈴愛というヒロインに対して、なぜこうまでザワつくのか、その答えを探したかったから」と。

 振り返れば「我が我が」の鈴愛に始まり、「萬平さん、萬平さん」の『まんぷく』福子に終わったこの1年の朝ドラ。100作目となる『なつぞら』で、広瀬すず演じるなつが、どんなヒロイン像を魅せてくれるのか。春からも小姑視点でしっかり追っていく所存です。