「(ローン組むのは)形だけです。負担はかかりませんから」
「騙された方も悪い」という見方もあるが、その手口は巧妙だ。静岡県のゴルフ練習場で教えているレッスンプロ高山一郎(仮名、46歳)のケースを見てみよう。
ゴルフスタジアムから接触があったのは2014年。練習場で「生徒募集」の張り紙を見た営業マンが電話をしてきた。
「ご自分のホームページを作りませんか? 生徒さんが集まりますよ」
「高いんでしょ?」
「いいえ、高山様のホームページに広告を掲載させていただければ、広告料と相殺になるので無料でお作りできますよ」
「へえ、タダなんだ」
無料と聞いた高山は営業マンに会うことにした。営業マンは最初から契約書を持ってきた。レッスンとレッスンの合間の忙しい時間だったので契約書にはさっと目を通しただけだったが「月々89600円の5年払い」という記載が気になった。
「タダって聞いたけど、ローン組むのか?」
「形だけです。高山さんにご負担はかかりませんから」
「ふーん。そんならいいけどさ」
契約書にサインする時、高山が名前を書こうとすると営業マンが言った。
「そこはお名前じゃなくて、法人名でお願いします」
「法人ってなんだよ。そんなもんねえよ」
「いえ、個人でも事業をなさっているわけですから。屋号がありますよね」
「スクールの名前か?」
「そうです、そうです。それでお願いします」
「うちの名前を出してもらえば大丈夫ですよ」
そして、ゴルフスタジアムの営業マンはこう言った。
「この後、ジャックスさんから審査の電話が入ると思いますけど、全部『ハイ』と答えてもらえば結構ですから」
営業マンは帰りしなに、オレンジ色の薄いパッケージを渡した。
「なんだこれ?」
「ゴルフレッスンのソフトです」
「そんなの俺のレッスンでは使わない。いらないよ」
「捨ててもらっても構いませんけど、一応、持っておいてください」
程なく高山のホームページが出来上がった。ゴルフスタジアムから広告料の名目で毎月入金があり、確かに自己負担は発生しなかった。思ったほど生徒は集まらなかったがタダなので文句はない。
2年後の2016年、再びゴルフスタジアムの営業マンがやってきた。
「今度、ホームページを更新して、スマホでも見られるようにするんです。高山さんは前の契約が残っていますから、少し上乗せしてもらえば大丈夫です」
そう言って、営業マンは新しい契約書を差し出した。「月々89600円の7年払い」とある。
「無理だよ。俺、2ヶ月前に車を買おうと思ったらローンの審査通らなかったもん」
高山は住宅ローンなど様々な借金を抱えて、首が回らない状態だった。
「あ、うちの名前を出してもらえば大丈夫ですよ」
営業マンは事もなげに言った。