「新人はいじられてなんぼ」という空気
ところで、いじりは好きですか。テレビやYouTubeではいじり上手、いじられ上手が人気者だし、教室や部活でもそれが日常だったでしょう。
職場でももちろんありますよ。「新人はいじられてなんぼ」というやつです。先輩から容姿や学歴や性体験の有無などをからかわれ、人前でネタにされたら感謝しないといけない空気。デブとか東大とか童貞とかキャラ付けされて、その話ばっかりされます。「おいしいじゃん!」と思ったあなたはすでに呪いにかかっているので、しっかり自覚しましょう。
いじりはいじめと見分けがつきません。いわゆるセクハラやパワハラを受けているのに、いじられておいしいと思わなきゃ、耐えなきゃ、面白く返さなきゃ、と思ってしまう。中には悩んで、心を病んでしまう人もいます。だから知って下さい。不快ないじりは、ハラスメント(嫌がらせ)です。人権侵害なのです。
人権ときいて、固い話だと身構えないで下さいね。人権って、言ってみればいつもの平凡な日常を問題なく生きられる権利ってことです。超身近で当たり前のこと。だから、もしあなたがハッピーじゃなくて、ひどいことをされても誰にも言えないとか、話を聞いてもらえないとか、助けてもらえない時は、あなたの人権がないがしろにされているのです。
かつて私も「オイシイ」と思っていました
ジャーナリストの中野円佳さんの『上司の「いじり」が許せない』(講談社現代新書)という本を読むと、いじりがどれほど人を追い詰めるのかがわかります。自分にかけられたいじりの呪いにも気がつくでしょう。中野さんにも登場して頂いた私の対談集『さよなら! ハラスメント』(晶文社)では、作家の桐野夏生さん、ライターの武田砂鉄さん、評論家の荻上チキさんなど11人の専門家とハラスメントについて話し合いました。
ハラスメントが日常のコミュニケーションに組み込まれている世の中では、誰しも被害者であり傍観者であり、加害者でもあります。だから「もうやめよう」と言うことが大事なのです。
かつて私もそうでした。「女子アナ」というコンテンツが流行していた時代にアナウンサーとして働いていたので、「女子は注目されて得だな!」と思っていました。番組で過去の性体験の人数を聞かれたり、容姿を貶されたりするのもオイシイと思い込んでいました。でも、適応すればするほど自分が誇れなくなっていきました。傷ついて、自己嫌悪に陥るばかりでした。摂食障害が悪化し、毎日食べては吐いて自分を痛めつけていました。こんなことで傷つく自分が悪いんだと思っていました。