1ページ目から読む
3/3ページ目

男性社員が童貞だとからかわれるのも……

 女性に従順で可愛らしい役割を求めるのはチヤホヤしているのではなくジェンダーの押し付けであり、下着が見えている写真を撮られたり、胸が大きいとあだ名をつけられたりすることは人気者の証拠ではなくセクハラ被害であり、容姿や年齢で人を馬鹿にするのは愛あるいじりではなく、人の尊厳を貶める行為なのだと知ったのは、それから20年も経ってからです。

 長い間、性差別やハラスメントについて無自覚でした。世の中はそういうものだと思っていたし、自分もそうやって誰かをいじっていました。気の利いた冗談のつもりで。いじられる女子はおいしい、得をしていると思っていたけど、それは間違っていました。だからあんなに苦しかったのです。

©iStock.com

 女性だけではありません。若い男性社員が童貞であることをからかわれるのも、宴会で裸になれと強要されるのも、無理やり酒を飲まされたり先輩に殴られたりするのも、残業を強いられて家に帰れないのも、仕方のないことではなく、れっきとした暴力です。部活で慣れているから平気、というかもしれませんね。気づいてください。そんなことが当たり前の部活がおかしいのです。

ADVERTISEMENT

「大人の常識」なんて言葉に騙されないで

 私の知人の職場では、先輩が新人男性一同を風俗に連れて行くのが慣例となっていたそうです。彼も入社時に先輩に誘われ、恋人がいるので断ったところ先輩に冷たくされて、こんなことをするためにこの会社に入ったんじゃないのにとトイレで悔し泣きしたそうです。きっと、彼以外にも断りたかった人はいると思います。でも、それが働くっていうことだと自分に言い聞かせたのかもしれません。

 ハラスメントや差別は女性の問題と思いがちですが、男性もまた、理不尽な目にあっても泣き寝入りを強いられているのです。

 セクハラやパワハラを「よくあること」と受け流すのが大人になることではありません。あなたはNOと言っていいのです。NOを言うことを、自分に許して下さい。怒りを感じる自分を軽蔑しないこと。傷つく自分を責めないこと。真面目な自分を冷笑しないこと。一回きりの人生をハッピーに生きたいと思うのは当たり前のことです。

©iStock.com

 もしも嫌な目に遭ったら、我慢せずに助けを求めて。社内のハラスメント相談窓口や、都道府県の労働局の相談コーナー、法テラス、法務局の「みんなの人権110番」などがあります。

 2020年度からは職場におけるパワハラの防止が企業に義務付けられ、セクハラ対策も強化されます。世の中は少しずつ、確実に変わっています。だから「大人の常識」なんて言葉に騙されないで下さいね。私も「もうやめよう」を言い続けます。

さよなら! ハラスメント

小島 慶子

晶文社

2019年2月26日 発売