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黒字が出ていれば社会的使命は果たしている

 自分もパイロットだった植木さんは「パイロットの送迎は贅沢ではなく、安全のため」と訴え、稲盛さんに詰め寄りました。

「安全と利益。会長はどちらが優先だとお考えですか」

©iStock.com

 すると稲盛さんは静かにこう答えました。

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「植木くん、それはどっちもだ。しかしな、金がないといい道具は買えん。メンテナンスに十分な人員をかけることもできん。新しい飛行機も買えんぞ。利益があるから安全が保てるし、安全だから利益が出る。経営とはそのバランスだ」

 そう言いつつ、稲盛さんは自宅から最寄り駅までのタクシーと列車の指定席は認め、植木さんに譲歩しました。それでも「まず利益ありき」という稲盛さんの思想はJAL全体に浸透し、パイロット、客室乗務員から整備、機内食の担当まで、社員全員が高いコスト意識を持つことで業績のV字回復を実現しました。

 皆さんの上司や先輩の中には「俺たちは金のために働いているんじゃない」と言う人がいるかもしれません。確かに企業には利益を出す以外にも社会的使命があり、「利益至上主義」ではいけないのかもしれません。しかし、資本主義は制度上、企業が社会的使命を果たせば黒字になるように出来ており、黒字が出ていれば社会的使命は果たしているはずなのです。

JAL会長に就任した稲盛和夫氏(左) ©共同通信社

自分の仕事が会社の利益に結びついているかどうか

 利益を軽んじる上司の中には、そのまた上の上司の意向を忖度していたり、自己保身に走っていたりする人が多くいます。理不尽な指示を出され、「これでいいのだろうか」と迷ったら、まずは自分の仕事が会社の利益に結びついているかどうかを考えてください。「利益に結びつく行動は正しく、結びつかない行動は間違っている」のが原則です。

 正しいことをしていても、利益が出ないことがあります。経営基盤の弱いスタートアップは、そんな状況によく陥ります。

 例えば、電気自動車(EV)のテスラは先行する開発投資が莫大になったため、2010年には資金繰りに行き詰まりつつありました。それまで無料だった社内のミネラルウォーターが有料になり、従業員も「いよいよ、うちも危ないぞ」と噂していました。会社への負担を減らそうと、マネージャーたちは自分の部下にコスト削減を命じました。

 そんなある日、不安を募らせる従業員全員に、創業者のイーロン・マスクさんから1本のメールが届きました。そこにはこう書いてありました。

「あなたの上司のためではなく、人類の未来のために働きましょう」