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日経はさらに時系列が詳しかった

 日経新聞はさらに時系列が詳しかった。「事務的な検討段階だった昨年秋ごろまでは、歴代続いてきた中国古典(漢籍)を出典とする案が有力だった」。つまり事務方はこれまでの伝統に沿って中国古典を考えていたという。

《だが、首相は昨年冬ごろ「漢籍にこだわる必要はないよね」と周囲に漏らすようになった。》

 日経は、首相が公然と語るようになったのは「昨年冬」。

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 東京新聞は、

《「国書がいいよね。『記紀万葉』から始まるんだよね」。首相は昨年末、古事記や万葉集を例示しながら日本古典を典拠とする意欲を側近議員に漏らした。》

 東京新聞は「昨年末」。日経の「昨年冬」と同時期である。

万葉集は「世界に誇るべき古典、文化遺産だ」

 東京新聞は次の記述も興味深い。

《年末年始に読んだという百田尚樹氏のベストセラー「日本国紀」にも万葉集は登場する。天皇や豪族に加え一般庶民が詠んだ歌を収めた「世界に誇るべき古典、文化遺産だ」と絶賛する内容だった。》

 そういえば、首相が年末年始に読む本としてSNSの写真に写っていたのが『日本国紀』だった。東京新聞はその影響もあると匂わせたのだろうか?

 朝日には昨年10月に中国を訪問した際の首相の言葉もあった。内容に注目してほしい。

「5世紀、日本に漢字がもたらされた。漢文の奥深さは日本語を豊かにした。19世紀になると、日本人は漢字を使って西洋の思想を翻訳した。新しい単語は中国に逆輸入され、今でも中国語として使われている」

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 実はこれとまったく同じ言説が今年1月3日の産経新聞に載っていたのだ。

 タイトルは「中国古典にとらわれず新元号を」。何を主張していたか。

「日本には優れた造語の歴史があり、特に明治以降は約1千語もの和製漢語が中国に導入され現在も広く使用されている。」

「新元号は中国の古典からの引用をやめ、わが国独自の自由な発想で定めてほしく思う。それが新しい時代の元号の在り方であり、国民の親しみにもつながる。」

 書いたのは日本財団会長の笹川陽平氏。山梨県の首相の別荘にいつも招かれる人物である。

 つまり、安倍首相と笹川氏は「日本の漢字スゴイ論」を同じような時期に発信していたことになる。今から考えると用意周到だったようにみえる。

 それにしても、こうなると「保守」とはなんだろう? とも思う。