「社会不安恐怖」という病気とは
そもそも社会不安恐怖とは、社会生活を送る中で、正常ではないレベルの不安を感じ、その不安が極度の緊張を招き、結果として何らかの身体症状を引き起こす病態。激しい動悸や発汗、顔面の紅潮、手足の震え、吐き気、口の乾き、立ちくらみ、不眠、興奮など症状は多岐にわたる。
Uさんのように「人前」という環境に不安を持つ人は、人前に出ることを避けることで症状の発現を防ごうとする。冠婚葬祭は不義理を承知の上で欠席し、会議なども理由を付けて出ないようにする。病状が深刻化すると会議に出るのが嫌で会社を休んだり、中には会社を辞めて引きこもってしまう人もいる。
「無理に人前に連れ出したりするとパニックに陥り、救急車を呼ぶ騒ぎになることもあります。でも、救急車に乗ると安心して症状が落ち着く。病院に着く頃には平静を取り戻して、申し訳なさそうに救急車から降りてくるんです」(竹村医師)
そもそも「不安を感じる」ということは、決して悪いことではない。人は日常においてつねに何らかの不安を感じることで、様々な危険に意識を向け、回避行動をとることができる。まったく不安を感じない人は、簡単に交通事故に遭うし、感染症にもかかるだろう。そんな人は長生きできない。
薬物療法で症状が大きく改善する可能性が
しかし、Uさんのように「過度な不安」に支配されると、生活の質を下げてしまう。どうすればいいのか。
「Uさんのような人の多くは、過度な不安を“性格”だと思い込んでいる。この考えを改めることが大前提。社会不安恐怖は、自分で自分の症状をコントロールできない“病気”なのです」
竹村医師は、きちんと治療を受けることで、状況は大きく改善する可能性があるという。
「薬物療法が効果を発揮します。使う薬はSSRIという抗うつ剤と、ベンゾジアゼピンという抗不安薬。SSRIは症状があるときに効き目がある薬で、エンジンブレーキのような存在、ベンゾジアゼピンはフットブレーキのような強い効果を示します。最初はこの2剤を併用し、効果が出てきたらベンゾジアゼピンを減らしていく。また、緊張で動悸が激しくなる人は、人前で喋るような時だけβブロッカーという脈を抑える作用のある薬を使うこともあります」
もちろん、薬物治療を恐がる患者もいる。そんな時には無理に薬を使うのではなく、医師や臨床心理士などによるカウンセリングを効果的に利用するという手もある。