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両陛下の暖かな励ましに背くことはできない

 お2人も周囲の反応は感じられただろうが、気にされたご様子を見せることなく、ごく自然に微笑まれながら被災者それぞれを見舞い、励まされた。

 夫を亡くし、小さな子供3人を連れた女性が手にした写真に目を止められると、お2人寄り添って話を聞かれた後、

「大変でしたね。どうか頑張ってください」

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 と励まされた(余談だが、その時の3人の子は成長し、長男は自衛隊に、次男は福祉施設に、三男は消防団に勤めている。災害支援を志した長男は、東日本大震災では福島県入りして救援活動に尽力した)。

 鐘ヶ江さんは、

「2017年に、60代になった奥さんから聞かされたんですが、あの時は夫を亡くし、家族の幸せを奪われ、生きる希望もなく、いっそ後を追おうというほど思い詰めていたそうです。でも、両陛下のあの暖かな励ましに背くことはできない、強く生きなければと思い直し、死の妄想から逃れて育児に励んだのだそうです」

 同じ高さの目線で向き合うその姿が、どん底にある女性の魂に響き、生きる気力が戻ったのでしょう、と元市長は言う。

市内4カ所をご訪問された両陛下。必ずひざまずいてお話しになった ©長崎新聞社/共同通信イメージズ

 その後の避難所でも、立ったまま被災者に向き合われることは一度もなかった。必ずひざまずいてお話しになったのだ。

「それまで視察に来た大臣も国会議員も官僚もみんな突っ立って見舞いの言葉を投げていたから、それはもう、私自身、驚いただけでなく、日本列島全体に衝撃波となって伝わりました」

 しかし宮内庁の一部や大学教授、評論家から疑問の声も上がった。「陛下が(国民に) 跪くことはない。その必要もない」といった内容だ。鐘ヶ江さんは市長として、すぐに反論したという。

「陛下のお気持ちが表れた証だ。何を言うのか。自分でまず被災者の気持ちになってやってみろ」