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「STAP細胞はありまぁーす」――名場面でふりかえる平成の記者会見 #2

「投げ出し辞任」から「レスリング協会パワハラ問題」まで

2019/04/23
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「私は自分自身を客観的に見ることができるんです。あなたと違うんです」

 最後の最後に言っちゃいましたか、そう思った覚えがある。平成20年(2008年)9月、首相だった福田康夫氏は辞任会見の質疑応答で、こう言い返したのだ。

電撃辞任を発表した福田康夫元首相 ©文藝春秋

 いつも淡々と落ち着きはらい、時には皮肉をこめ、時には理路整然と人ごとのようなコメントの多かった福田氏は、質問者に「唐突に投げ出された」と問われ、身体を左右に揺らし「これらかの政治を考えて」と釈明した。だが退陣会見すら「人ごとのよう」と指摘されると、その声に怒気がこもり、冷ややかにこう言い切ったのだ。小泉政権では官房長官として、個性たっぷりの皮肉やユーモアのあるコメントが多かっただけに、そつなくかわすと思いきや、堪忍袋の緒が切れたように飛び出てしまった失言に驚かされた。

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人の印象は裏表、どう思うかはその人次第

「一番の被害者は俺だから」

 呆れてモノも言えない、とは、こういうことだろう。前日に逮捕情報が流れ、押し寄せる記者たちを前にふてぶてしくもこう言い放った人物。平成21年(2009年)2月、疑似通貨の「円天」や高額配当で、全国から巨額の資金を集めて破たんしたL&Gの波和二会長だ。

L&Gの波和二会長 ©共同通信社

逮捕前だというのに何を言われても動じる風はなく、「(謝罪は)ありえない」と言いたい放題を繰り返す。大きな声ではっきりと、短い言葉でわかりやすく言い切るが、相手が相槌を打つタイミングも忘れない。堂々とした態度に独特の風貌、黒をベースにした服装は胡散臭さが漂うが、成り金風な存在感で一度見たら忘れられない。

 彼の話に興味を持てば、かえってその違和感や異質感に惹きつけられる。緩急織り交ぜ、声音を変化させ、覚えやすいインパクトのある数字を使うという巧みな話術が、儲けたいという人の欲求に入り込んでいく。まさにマルチ商法を使った詐欺犯の典型なのだ。信じている人にすればふてぶてしさも頼もしさに通じ、言いたい放題も自由奔放、豪放磊落に感じたのだろう。人の印象は裏表、どう思うかはその人次第なのだ。

 逮捕時にはもみくちゃにされながら「詐欺師かペテン師か、これから時間が解決する」と豪語したが、詐欺師もペテン師も同じだとは思わなかったようだ。

©共同通信社