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「STAP細胞はありまぁーす」――名場面でふりかえる平成の記者会見 #2

「投げ出し辞任」から「レスリング協会パワハラ問題」まで

2019/04/23
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本当の自分を露呈させる記者会見の怖さ

「どういうことですか?」

 なんだ、やっぱり聞こえていたのか、と呆れたのは、全聾の天才作曲家として話題になった佐村河内守氏の謝罪会見だ。

佐村河内守氏 ©時事通信社

 平成26年(2014年)3月、謝罪のはずが途中から逆ギレし、自分が偽っていたことを忘れて、つい反応してしまったのだ。誰もが疑惑の目を向けて見ていた会見だけに、時すでに遅し。もはや言い訳は通用しなかった。

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 作曲家新垣隆氏が18年間、彼のゴーストライターをやっていたと告白。その上、彼の全聾は偽りで難聴だったと謝罪会見が開かれた。冒頭は謝罪に徹していたが、自分のある発言について謝罪を求められた途端、表情が一変、「どういうことですか」と口調がきつくなる。ところがこの時、正面に座る手話通訳者の手話はまだ終わっていなかった。反応するのが早すぎた。手話がなければコミュニケーションが取れないはずが、感情的になりつい本当の自分を露呈してしまったのだ。それを指摘されると、手話通訳者をちらちら見るが、急に声音が怖くなり、口ごもっていた口調がはっきりクリアな言い方に変わる。

記者会見時には、すっかり風貌がかわっていた ©文藝春秋

 最後は「ふざけたことはやめてもらえませんか」と手話通訳者を見続けた。感情的になるとつい我を忘れて墓穴を掘ってしまう。会見の怖さだ。

“リケジョ(理系女子)の星”として注目を浴びたが……

「STAP(スタップ)細胞はありまぁーす」

 その話し方と当惑しているような表情に、「真実はどうなのだろう?」と首を傾げたくなった。

 平成26年(2014年)4月、理化学研究所の研究員だった小保方晴子氏は、報道陣から「STAP細胞があるのか、ないのか」と問われ、そう答えた。STAP細胞を作製したとして一躍注目を浴びたが、不正を指摘されて会見を開き、自らの未熟さから疑念を招いたと声を震わせ謝った。

小保方晴子氏 ©文藝春秋

 有無を問われると即座に頷きながら「あります」とはっきり答えたものの、「何をもって信用したらいいのか」と問われると、「何をもったら?」と、しばしキョトンとしてしまう。「各地で再現できるように」と瞬きしながら応えると、最後に「ふふっ」と強張ったような笑みを浮かべた。その笑みが、この研究の脆さと危うさを感じさせた。

“リケジョ(理系女子)の星”として注目を浴びていたのだから、客観的、論理的、分析的に理詰めで説明するかと思いきや、返答に窮し困惑気味に。再現性が重要な科学の世界で、「レシピのようなものはある」という言葉で実験手順を表す曖昧さに、彼女の見せた割烹着姿が重なってくる。優秀な科学者というイメージとあまりにかけ離れた受け答えが、研究の危うさを感じさせた。