平成という時代を振り返ってみると、数多くの謝罪会見が行われてきた。思い出すものは人それぞれ違うだろうが、ぱっと頭に思い浮かぶ会見には発言や態度、見た目が印象的だったものが多い。

理よりも情に訴えるものに変わった

「私らが悪いんであって、社員は悪くありませんから」

 涙ながらにそう訴えた姿が印象的だったのは「山一証券」最後の社長となった野澤正平氏だ。平成9年(1997年)11月、「社長就任後に知った」という莫大な簿外債務を抱え自主廃業を発表した会見で、野澤氏は長時間にわたり淡々と廃業までの経緯を説明した。これだけなら、老舗証券会社がついに廃業したというだけの会見に終わっていた。だが「社員にどのように説明するのか」という記者の質問から、野澤氏の態度が一変、会見は理よりも情に訴えるものに変わった。

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「これだけは言いたいのは」とまっすぐに前を向いた野澤氏は、「社員は悪くありませんから」と語気を強めた。「どうか社員の皆さんを応援してやって下さい」と立ち上がると、「お願いします」と頭を下げて号泣した。

泣きながら頭を下げた野澤社長 ©共同通信社

 昔も今も謝罪会見では責任逃れに走るトップが多い。だが自分らの責任を認め、社員を案じてなりふり構わず号泣した野澤氏の姿は、トップとしてのあり方や誠実さを感じさせ、人の心を動かした。後にも先にも、このような会見はこの時が初めてだ。

取引先について聞かれると声を震わせるが……

「私の不徳の致すところです」

 旅行会社「てるみくらぶ」の山田千賀子社長は、涙声でお詫びしながら頭を下げ、身体を震わせ泣いているように見えた。謝罪会見で感情的になったり涙するといっても、誰かのために泣くのと自分のために泣くのでは意味も違えば印象も違う。それが嘘泣きに見えたなら印象はさらに悪くなる。

「てるみくらぶ」の記者会見 ©時事通信社

 平成29年(2017年)3月、「てるみくらぶ」が破産してツアーに申し込んでいた9万人が被害にあうという詐欺事件が起きた。会見で山田氏は、経営状態について聞かれると口ごもったり、目をつぶったりと都合の悪い質問には言葉を濁して答えない。取引先について聞かれると声を震わせるが、被害者への対応については淡々と話すだけで、被害者目線に立つという意識が抜けている印象だ。時おりハンカチで目元を抑え、顔を伏せて泣いているようだが、目は潤んでおらず目元も濡れていなかった。

 原因や経緯についてきちんとした説明はなく、被害者への補償や対策もはっきりしない。そのため、泣くという行為が自己憐憫か会見を切り抜けるための手段にしか感じられなかった。