「頭が真っ白になったと……」
マイクを通して聞こえた女将のささやきだけでも驚きだったが、その指示に従って答える息子にも驚かされた会見だ。
平成19年(2007年)12月、食品の産地や消費期限の表示偽装事件を起こした船場吉兆が、京都のホテルで行った謝罪会見は前代未聞のものだった。
“ささやき女将”と揶揄された船場吉兆取締役の湯木佐知子氏は、記者から従業員に責任をなすりつけ、経営側に責任がないとしてきたことを問われ、うつむいていた長男、喜久郎取締役にそうささやいた。答えに詰まりうつむいたまま唇を噛んでいた息子は、女将のささやきを受け「頭が真っ白になったといいましょうか。責任逃れの発言をしてしまいました」と答えた。言い訳のない素直で率直な謝罪ができず、言わされている息子と言わせている母親では、謝罪する気持ちも反省の念もまるで伝わらない。
もう1つ驚いたのは、この会見がひな壇の上で行われたことだ。今ならそれだけで「謝罪する気があるのか」と非難を浴びるだろう。
アパホテル社長は謝罪会見なのに帽子姿
ありえない格好で謝罪会見に現れたことで、記憶に残っているものもある。謝罪会見なのに、女社長は帽子を被って現れたのだ。
平成19年(2007年)1月、京都のホテルなどの耐震強度偽装問題で、アパホテルの元谷芙美子社長が謝罪会見を行った。広告塔として帽子を被った姿が有名な元谷社長は、謝罪会見でも帽子姿。謝罪の言葉を述べ、頭を下げる時になっても、その帽子はまだ頭の上。頭を下げてようやく気がついたのか、ここで慌てて帽子を取った。
だが帽子の下は白髪。メイクもアクセサリーもばっちりで外見に気を使っていただろうし、帽子を被っていた段階で出ていたのは黒髪だけだったため、謝罪に際し帽子を取ることを想定していなかったように思えた。謝罪の場では、それにふさわしい服装や身なりというものがある。会見では涙するも、マスカラやアイラインが溶けて黒い涙となり、腹黒い性格が表に出てきたのではと揶揄された。
謝罪では相手の立場に立つことが必要
最近では平成30年(2018年)5月、日大アメフト部の内田正人監督が、ピンクのネクタイ姿で謝罪したのは記憶に新しい。
アメリカンフットボールの定期戦で日大の選手が行った悪質タックル問題で、負傷した選手やその保護者らに面会した帰りだという内田氏のネクタイはピンク。謝罪の場にそぐわないことは一目瞭然。それだけで内田氏の謝罪の気持ちや誠意に疑問を持ったのではないか。謝罪では自分より、相手の立場に立つことが必要である。見ている側がどう思うのか、それが抜ければ謝罪は成り立たない。
その後に行われた内田氏と井上奨コーチの緊急会見は、責任逃れの発言で要領を得ない。おまけに日大広報の司会者が、会見を打ち切ろうと記者たちの発言を何度も遮り、挙句に逆ギレ。何のための会見かと非難を浴びるものだった。逆ギレした司会者は、内田氏がピンクのネクタイで謝罪した時も同行していた。マスコミ対応や謝罪会見のやり方を間違うと、ダメージは計り知れないものになる。