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いつだって歴史と記憶がテーマ

 知りたいこと、明らかにしたいことがまずはあって、写真を通してそれを形にしていくのが米田知子の作品だ。それゆえ撮影や制作に入る前には、いつも綿密なリサーチがおこなわれる。問題の所在はどこにあるか、そのテーマにかんする歴史的な事実はどうなっているのか、コツコツと調べを進めて浮かび上がらせていく。膨大な文献や資料にあたるのは欠かせぬ作業で、ロンドンにアトリエを構えている米田にとって、大英図書館が大切な仕事場のひとつになっているのだそう。

 リサーチと思考を重ね、撮影をする前に自分のなかにしっかりと蓄積をつくっておく。すると、いざシャッターを押すときにそれらがおのずと噴出し、強いエネルギーを一枚の写真に込めることができるようなのだ。

米田知子「アルベール・カミュとの対話」展示風景, 2019, ShugoArts

 歴史と記憶は、創作を始めたころから変わらず米田知子の根本的なテーマであり続けている。ごく初期の作品『Topographical Analogy』は、家屋の壁に残った痕跡を写したものだった。現在も継続中の『Between Visible and Invisible』は、20世紀の著名人の筆跡を、彼らの眼鏡を通して眺めるという重厚かつ詩情あふれるシリーズ。『Scene』は世界各地の何気ない風景を写しているようにみえて、じつはそこが歴史的な事件の現場だったりする。

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米田知子、サルトルの眼鏡 ー 『レ・タン・モデルヌ』の編集長サルトルに宛てられたカミュからの書簡を見る 、2018、gelatin silver print、3sizes
copyright the artist
courtesy of ShugoArts

 作品の絵柄や雰囲気はシリーズごとに変われども、追い求めているテーマは見事に一貫している。今展で観られる新作群もまた同じだ。20世紀という激動の時代に生を享け、この世の不条理性を引き受けつつ「人間の存在と愛」をうたい上げたのがカミュである。この希代の文学者に米田知子は強く感応し、カミュにまつわる歴史と記憶をいまの時代に引きずり出し、白日の下に晒している。

 米田作品に宿った「目には見えないけれど、たしかにそこにある大切な何か」を、会場で感得してみたい。

米田知子「アルベール・カミュとの対話」展示風景, 2019, ShugoArts

写真=武藤滋生