「休まない美学」を否定し、新しい居場所を与えた一声
そんな中、学校と同様に公共の教育機関である図書館が「学校を休んで」と呼びかけたことは青天の霹靂であっただろう。これまで学校、とりわけ義務教育に関しては皆勤賞を表彰したり、進学時に必要な調査書の加点項目としたりする風潮が根強かった。だからこのツイートは長年日本の教育が称賛してきた「休まない美学」を否定する、極めて革新的な一声なのだ。
家庭、学校に代わる新しい居場所を与えること。そしてそこへ「逃げる」ことを肯定すること。子どもの自殺を防ぐ一つの方法として極めて新しい視点が、教育機関から飛び出したのである。
インターネット掲示板やSNSでは不特定多数の見知らぬ人々と知り合うなど、子どもたちが心の隙間につけ込む人間たちによって、事件に巻き込まれるリスクも高い。また、新たないじめの温床となるケースも増えてきている。一方、図書館は先述の通り公共の場所だ。必ず職員ら大人がいて、子どもたちを見守る空間としての性格が強い。静かに本を読んだり、ぼーっとしたり、気が向いたら図書館の職員と話したり、安全で自由なひとときを過ごすにはうってつけだ。
また、ツイートの文中に「マンガもライトノベルもあるよ」とある通り、近年ティーンエイジャー向けの書籍を集めた「YA(ヤングアダルト)コーナー」と呼ばれる棚を設置している図書館も多い。堅い勉強の本や難しい小説だけではない。ファッション誌や男性アイドル誌を毎月揃えてあることだってある。そのため子どもたちにとって非常に敷居の低い場所へと進化しているのだ。
高校生の私を救ったのは、宮崎駿の物語の世界だった
私自身、高校3年生のときにいじめに遭い、不登校だった経験がある。「学校に行かないのはおかしいことだ」と言う両親、そして自らが抱いていた偏見と、生き地獄のような学校との間で板挟みになり、自殺を考えたこともあった。特に一番つらかったのは春休み前の卒業式。私は欠席し、郵送で卒業証明書という白黒でA41枚の紙きれを受け取った。その紙きれを見ていると「学校に行けなかった」という惨めさが可視化させられたような気持ちになり、強烈な敗北感を覚えた。
しかし、そんなとき支えとなったのは一人の友人と読んだ物語の世界だった。私は友人の家で、まるで幼い頃に戻ったかのように絵本を読み聞かせし合ったり、好きな物語について語り合ったりした。そのなかで、今でも友人がくれた本で印象的なのは宮崎駿さんの『シュナの旅』だ。当時の私が置かれた状況にリンクする部分がありながらも、主人公の自ら広い世界へ冒険に出て、決して塞ぎ込まず、愛情に触れて絶望から抜け出す姿を見て勇気をもらった。