昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

2019/05/24

後輩たちを、今どんな思いで見つめているのか

 先発左腕のリーダーとしてマウンドに立っていた石田は、そこからどんな景色を見ていたのだろうか。私なんぞの想像は全く及ばないくらい、プロの世界って怖い。ちょっとのボタンの掛け違いから、運を逃し、それが徐々に自らの「感覚」すら蝕んでいく。そんな場面はもう、ベイスターズファンなら胃もたれするほど見させられてきた。

 つい最近もドラフト1位ルーキーが「流れ」という魔物に解体されかけたところを見させられた。「ナゴドで完投したのはあれだよ、味方がめちゃめちゃ打って、石田くんもスーパー石田くんでさ」と私が言った。「あれはすごかったな、ノーヒットノーランの勢いだった」とベイスターズをよく知る友人が言う。2017年9月23日、CS争い佳境の中の石田健大。しかしこれもよくよく調べたら完投ではなく、無安打無失点のまま7回表に代打を出されて交代していた。「CS直前だったからか、大勝してたし」「うん」「やっぱり記憶ってかすれるもんだね」「だけど……」。

今の左腕活躍時代の第一歩を記した石田健大 ©文藝春秋

 ノーヒットノーランしかけたすぐ後のCSファイナル、あの広島での雨天コールド負けと、あの1回2失点の交代が石田に何をもたらしたのかは私には分からない。調子を取り戻し、ローテを支える後輩たちを、今どんな思いで見つめているのか。今石田は中継ぎだ。誰かが出したランナーを背負うこともある。失点必至のピンチに放り込まれることもある。ロボは最後、仲間を助けようと我を忘れ、普段だったら絶対にかからないはずの罠にはまった。それは気高い狼王がたった一瞬だけ見せた「らしくなさ」だった。自分が作り出したわけじゃない不穏な空気の中で、相手バッターと戦う石田。エースを目指していた石田にとって、そこは望んでいた仕事場ではないかもしれない。だけど、ちょっとのボタンの掛け違いで流れは変わる。悪い方向にも、そしていい方向にも。「らしくなさ」で罠にかかったロボだけど、それは必ずしも不幸なことではなかったんじゃないかなと、私は思う。「らしくなさ」と「らしさ」はいつも重なる。私は今年こそ、今まで見たことない石田が、見たい。

 記憶はかすれるものだ。だけど今の左腕活躍時代の第一歩を記したのが、荒れ野で一人遠吠えしながら仲間を導いていったのが、石田健大であることだけは、絶対にかすれることはない。私と村瀬さんが捏造していた「完投」の記憶が本物になる日を、ずっとずっと待っています。

◆ ◆ ◆

※「文春野球コラム ペナントレース2019」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト http://bunshun.jp/articles/11693 でHITボタンを押してください。

この記事の写真(3枚)

HIT!

この記事を応援したい方は上のボールをクリック。詳細はこちらから。

ツイッターをフォローして最新記事をいち早く読もう

文春野球をフォロー