「チャリンコ」とよく間違えられる。「自転車ちゃうんねん」とその都度、訂正するのだが、今度はこう聞かれる。「チャリコって何なん?」と。中谷、糸原、北條、2軍では横田にも説明した。「チャリコは真鯛の幼魚の名称で……成長したら名前が変わるねん」。だから、釣り好きで魚種にも詳しい藤浪、梅野は分かってくれた。こんなどうでも良い会話が、甲子園や鳴尾浜で発生したのも、昨年3月から「チャリコ遠藤」のアカウント名でTwitterを始めたからに他ならない。

「真鯛釣ったことないやろ。チャリコやん」

 当初は「スポニチ・遠藤礼」という何の変哲も無いアカウントでつぶやき続けていたが、昨年10月に矢野燿大新監督が誕生して「チャリコ」に改名。腕前は別として、僕の釣り歴は25年以上になる。同じくシーズンオフには釣り糸を垂らすアングラーの指揮官に「お前、釣りのこと結構、語るけど真鯛釣ったことないやろ。チャリコやん」と何度かいじられたことがあった。

 人間観察眼に優れた監督のことだから、記者として「小物」という痛烈な批判も存分に込められていただろうけど、監督就任のタイミングで完全に“乗っかって”アカウント名を変更。これが、ただの34歳の「中年記者」から「魚」になって親しみやすくなったのかは分からないが、フォロワーが一気に増え始め、開設1年ちょっとで間もなく1万人に達する。普段、原稿で褒められない大阪スポニチの編集局長にも「“チャリコ”に名前変えたのがお前のファインプレーやったな~」と称賛された。

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 書きたいのは「チャリコ誕生秘話」ではない。なぜ“魚類”として僕が今さらツイッターを始めたのか……。それは、新聞、「紙」を売りたい一心。入社10年ちょっとの一記者が偉そうに言うつもりはないので、ここからはあくまで「チャリコ個人の考え」として是非とも、文字を追っていただければと思う。

「紙」の前に立ちはだかる「速報」「ネット」という大きな壁

 スポーツ新聞の現状は厳しい。部数が落ちていることは各所で見聞するし、思えば電車でスポーツ紙を手に取っている人はめっきり見なくなり、スマホ、タブレット端末が格段に増えた。今に始まったことではないが「紙」の前に立ちはだかるのは「速報」「ネット」という大きな壁。例えば、担当する阪神タイガースでも試合結果はもちろん、勝敗を分けたポイントや活躍した選手の談話が、今は1分……いや秒単位で各社サイトのネット速報として更新されていく。

 スポーツ紙だけでなく、ネットメディア媒体は無数にあり、鳥谷が打った? 藤浪が抑えた? の情報は、球場に行かずとも、その日のうちにスマホを開いて何度かタップすれば各々が情報を更新完了。こうなれば、わざわざ、翌日の朝に売店やコンビニへ走って新聞を買いに行く理由が、ほとんど無くなってしまうのも自然な流れだ。コンビニに弁当を買いに行っても売れ残ったスポニチにどうしても目がいってしまい、いつも「紙」の必要性は……? と悶々としてしまう。

 かくいうスポニチも自社サイト「スポニチアネックス」で毎日、続々とスポーツ、競馬、芸能、社会などの速報をアップしており、阪神情報も例外ではない。実際、僕も試合中にカタカタとパソコンを叩きながら、せっせと速報記事を打つ。紙を売りたいと言いながら「自分で自分の首を絞めてるやん」とツッコまれそうだが、紙面だけに掲載したエピソードや写真など、紙とネットの差別化も当たり前に各社は行ってきている。

 いや、そもそも紙とネットの違いを意識している人は少ないだろう。特にネットから情報を得ることが当たり前の若年層に「スポニチ」を知ってる人はどれだけいるのか。学生や20代に、スポーツ新聞のイメージを聞けば「おじさんが読むもの」「エッチな面がある」「まだ売ってたんですか?」という悲しい回答も返ってきそうで怖い。冷静に考えて、大学生や高校生にとってスポーツ新聞は身近でないし、手にすること、ましてや購読することは、なかなか勇気がいるし、ハードルは高いだろうなと思う。