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新聞が売れない時代に……なぜスポーツ紙記者がツイッターを始めたのか

文春野球コラム ペナントレース2019【対戦テーマ:SNS】

2019/05/31
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希薄になった「誰が書いた」かを意識して

 書いていて非常に辛くなるのだが……。このままでは、紙を買わない世代がどんどん増え続けていくし、打開策なんてチャリコレベルでは簡単に思い浮かばない。いずれ、紙は無くなる運命にあるのかもしれない。ただ、小物は小物なりに“激流“に抗うことはできないか…。そんなことを考えていた中で気づいた。ツイッターを利用する若い世代は、そのまま“スポニチを知らない世代”に当てはまるのでは――。ここを何とか開拓して紙を売れないか。当たって砕ける価値はありそうだった。

 そこでチャリコの登場である。最初は「スポニチって、こんな新聞ですよ」「この選手のこんな話が明日の新聞で読めますよ」と誰でもできそうな、分かりやすい「宣伝」に加えチャリコが、誰を取材し、誰を書いたか誰も興味がないであろう「自己主張」をひたすらつぶやいた。イメージは、生産者の顔写真が表示された野菜販売。ヤンキースやレッドソックスより番記者が多いと言われる阪神タイガースの情報は日々、湯水のように溢れかえる。そんな状況で希薄になった「誰が書いた」かを、ここぞとばかりに強調して「今日は○○さんが作ったキャベツ買おうか」という意識で1部140円の紙面を手に取ってもらえれば……なんて安直に妄想していた。

 そこに「キャベツを買ったら、余ったトマトもくれてラッキー」的な感覚で、ツイートには普段は見れない練習風景や選手が食事に行った際のオフショットも添付。とにかく、自分だから撮れるものを意識した。今春キャンプ中に食事に行った中谷、北條、糸原の笑顔のスリーショットには「元気もらえました! 学校のテスト頑張れます」といったように、学生と思われるユーザーから驚くほどの「リプ」があり、次第に「通学前に新聞買いました」「学校終わりまでスポニチ残ってるかな?」と今まで想像もできなかったようなコメントも目に入ってくるようになった。スポニチがはみ出たカバンを持って校門をくぐる生徒がいるなんて素敵すぎるではないか……。これも妄想ですが……。

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中谷、北條、糸原のスリーショット ©チャリコ遠藤

 と、ここまで成果的な嬉しいことばかり書いてきたが、この先部数が伸びるかも分からないし「記者が出しゃばるな」だとか「選手を利用するな」という厳しい批判も聞こえてきそうだ。そもそも、今さら新聞を売りたいなんて時代に逆行しているのかもしれないが、ツイッターを始めてから、100円ショップで購入したクリアファイルに何年も前のスポニチを「今でも保存してます」という声をたくさんもらった。社内で整理記者がひねり出した独特の見出しや、カメラマンが一瞬のタイミングを狙ってシャッターを切ったオンリーワンの写真、そして現場記者が書く珠玉のエピソード……。新聞を手に取れば、結集した「プロの技」をまとめて体感できる。まだまだ紙も捨てたもんじゃない、と思いたいし、そんな「スポニチ」を売っていきたい。

「チャリコ」という名を背負って、大海原に飛び出した以上、今は、思い切り悪あがきしてみたいと思っている。スポーツ新聞の未来という先の見えない深海を、チャリコはパクパクと“つぶやき”ながら彷徨い、泳いでいく。

チャリコ遠藤(スポーツニッポン記者)

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