「いままで生きてきたなかで、いちばん幸せです」

 1992(平成4)年に開かれたバルセロナ・オリンピック。14歳の誕生日を迎えたばかりの岩崎恭子が、競泳女子200m平泳ぎで金メダルを取った。

 レース終了後、ミックスゾーンでマイクを向けられると、中学2年生だった彼女から出てきた言葉が、その年の流行語にもなった。

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 無名の選手が一躍、国民的ヒロインになった瞬間である。

バルセロナ五輪200m平泳ぎで金メダルを獲得した岩崎恭子 ©AFLO

 平成から令和へと時代が移るなか、なぜ未だにこの言葉が人々の記憶に残っているのか。それは、女子中学生が発したナチュラルな言葉だったからに他ならないと思う。

 昨今、スポーツの取材で感じるのは、選手から出てくる言葉が「用意されたもの」になってきた印象が強いということだ。

選手の言葉が“除菌”される時代

 1990年代後半、平成10年前後から選手が事務所に所属することが多くなり、言葉も管理されることが多くなった。そして近年はSNS時代を迎え、不用意な発言による炎上は避けなければならない。そうなると、試合直後のコメントも定型文に近くなってくる。

 “除菌”時代の到来である。

 特にテレビのインタビューで発せられる言葉は、家族、スタッフへの感謝の気持ち、最後は観客へのメッセージで締めくくられる。

 イチローの引退会見などは、もはや例外中の例外。選手によって取れ高は大きく違っている。

 そんな時代に仕事をしていると、27年前に「恭子ちゃん」から自然に出てきた言葉はあまりにも牧歌的で、新鮮に聞こえる。そこには嘘がなく、「14歳の真実」が詰まっているからこそ、いまも忘れがたい言葉として記憶に刻まれているのだろう。

まだあどけなさの残る14歳だった ©JMPA

 ただし、14歳で金メダリストになってしまうと、必ずしも幸せなことばかりではないと知ったのは、4年後のことだった。