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特集私が令和に語り継ぎたい「平成の名言」

前田敦子「AKBのことは嫌いにならないでください」が映す平成アイドルの“危ういグループ観”

前田敦子「AKBのことは嫌いにならないでください」が映す平成アイドルの“危ういグループ観”

2019/05/04

genre : エンタメ, 芸能

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「私のことは嫌いでも、AKBのことは嫌いにならないでください」

 AKB48の“絶対センター”だった前田敦子が涙ながらにこの「名言」を口にしたのは、いまから8年前、2011(平成23)年6月の「第3回AKB48選抜総選挙」で1位になったときだった。14歳でAKB48の結成に参加した前田は、このとき20歳の誕生日を翌月に控えていた。

2011年の総選挙で1位を獲得したあと「AKBのことは嫌いにならないでください」と口にした前田敦子 ©文藝春秋

昭和はソロアイドル、平成はグループアイドルの時代だった

 AKB48のシングル曲を歌うメンバーは、通常、総合プロデューサーの秋元康ら運営側によって選ばれていた。選抜総選挙は、そうした選考方法にファンから不満の声が上がったのを受け、いっそ投票で決めてもらおうとの趣旨で2009年より始まった。ちょうどAKB48が一般にも注目され始めた時期である。第1回の総選挙では、前田が1位になったものの、翌年は2位に陥落、大島優子がトップに立つ。しかし、日本武道館で開票イベントが開催された第3回では再び前田が返り咲いた。例の発言の背景には、大島との熾烈な争いに加え、アンチファンの存在があった。

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 いま、この言葉を思い返すと、アイドルの世界における集団と個人の関係について考えざるをえない。昭和の人気アイドルの多くがソロだったのに対し、平成はグループアイドルの時代となった。1990年代後半より人気を集めたモーニング娘。によって、メンバーの卒業と加入を繰り返しながらグループが継承されていくという形式が確立され、多くのグループもこれを踏襲した。2005年に結成されたAKB48も、その一つだった。

2012年のAKB48の東京ドームコンサート ©文藝春秋

 AKBが画期的だったのは、そのグループ名の由来にもなった東京・秋葉原に劇場を常設したことだ。毎日劇場で公演を行ないながら、そこでのパフォーマンスやファンからの人気の度合いが評価の指標となり、シングル曲のメンバーの選考にも影響した。このため、グループ内では常に競争が繰り広げられることになる。メンバーに対する評価の指標にはその後、握手会におけるファンへの対応や、SNSでの注目度なども加わった。

 さまざまな評価の基準があることが、グループの幅を広げたことは間違いない。毎年恒例のイベントとなった選抜総選挙でも、ランクインしたメンバーから、それぞれの個性を反映した名スピーチが生まれた。