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 自ら書いていても思うが、タイトル独占というのはとてつもない無理難題である。しかしながらそれをやったのが(防衛戦が大多数とはいえ)、平成7年度の羽生だったのだ。

 ちなみに羽生七冠達成の段階を追うと、

平成3年の3月に棋王奪取(一冠)
平成4年の9月に王座奪取(二冠)
平成5年の1月に竜王奪取(三冠)
同年の7月に棋聖奪取(四冠)
同年の8月に王位奪取(五冠)
同年の12月に竜王失冠(四冠に転落)
平成6年の6月に名人奪取(五冠に復帰)
同年の12月に竜王奪回(史上初の同時六冠達成)
平成7年の3月に王将挑戦失敗(七冠達成ならず)
平成8年の2月に王将奪取(七冠達成)

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 となっている。羽生をしても5年かかるとみるべきか、羽生だから5年で済んだとみるべきか。

「叡王」のタイトルを奪取すれば八冠グランドスラム達成となる羽生善治 ©文藝春秋

 いずれにしても、せめてタイトルの過半数を保持した時にようやく実現の可能性が、わずかながらに感じられる大記録というべきだろう。

3、「女性棋士」の誕生

 棋界の新たな転換点として認められる瞬間は、女性が四段になりプロ棋士としてデビューするときだろう。

 現在までに60名を超える「女流棋士」が誕生しているが、「女流棋士」と「棋士」はまったくの別制度だ。プロの棋士になるためには、奨励会の三段リーグを突破して四段になる必要があるが、いまだ「女性棋士」は一人もいない。現役最強女流棋士というべき里見香奈をもってしても、奨励会の壁は厚く、三段リーグという最後の壁を抜けられなかった。現在、ただ一人の女性として三段リーグを戦っている西山朋佳には大きな期待がかかっている。

 藤井フィーバーによる一連のブームで、奨励会を目指す女子が増えれば、いずれは女性棋士の誕生が現実になると思う。また現在の女流棋士も、勝ち進むことで男性棋戦参加への道を開き、そこでプロ編入試験の受験資格を得るに至れば、こちらも女性のプロ四段は夢物語ではない。

現在、奨励会三段リーグに身を置いている西山朋佳 ©相崎修司

4、年度最高勝率記録の更新

 現在の年間最高勝率記録は、昭和42年度に中原が記録した0.855(47勝8敗)。この記録は50年たっても破られていない。連勝記録以上の聖域と化している。昨年度及び一昨年度の藤井には更新の期待がかかっていたが、惜しくも届かなかった。

 とはいえ、2年連続年間8割超えは中原と藤井しか達成していない、こちらも偉大な記録なのだ。史上初の3年連続8割超えとともに、新記録達成も見てみたいというファンは多いだろう。

5、通算勝利数の更新

 現在の通算最多勝は大山の1433勝。これを追うのが1429勝の羽生である。さすがに更新は時間の問題だろうが、さらに羽生が勝ち数をどこまで積み重ねるかだ。

 直近3年の羽生の年間勝利数は、平均して30ほど。また大山は晩年の15年間でも平均して年30勝近く勝っていた。仮に羽生が今後の20年間を同様のペースで勝ち進むと、前人未到の2000勝も夢ではない。

 令和の棋界は、藤井聡太が平成の羽生善治を上回る活躍をするかという点に注目が集まるだろう。そして、羽生が自身の数字をどこまで伸ばしていくかという可能性も興味深い。いずれにしろ、新時代の棋界からも目を離せない。

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