平成から令和に変わった5月1日。将棋界ではいきなり衝撃の対局があった。王位戦紅組リーグの木村一基九段―菅井竜也七段戦だが、その手数はなんと317手! さすがに両者ともに精魂尽き果てたか、感想戦はわずか10分ほどで終了したという。
筆者の印象に残る木村の長手数対局といえば、平成20年9月のA級順位戦、対佐藤康光九段戦である。205手の末に持将棋となり、日が変わっての午前2時半過ぎに始まった指し直し局はこちらも160手という長手数の結果、木村が勝利した。終局時刻は午前6時17分。さらに感想戦もきっちり行われた末に取材陣を含めて、将棋会館そばにあるラーメン屋へ行った。筆者はそこでギブアップしたが、木村と他の記者はそこから築地に向かったというのが、おぼろげながらの記憶だ。
いきなり生まれた「令和最長手数の対局」
プロの対局において、指し手の記録を残す棋譜用紙は1枚で150手まで書けるようになっている。それが2枚目に突入すれば、十分に長手数の対局といえる。だが木村―菅井戦は、なんと3枚目に突入したのだ。過去にも300手超えの対局は相当に例がない。いきなり生まれた「令和最長手数の対局」の記録はしばらく破られないと思う。
そもそも、なぜそこまで長手数になったのだろうか。理由の一つとしては「持将棋模様」になったことが挙げられる。持将棋とはお互いの玉が敵陣に突入して、双方ともに玉を詰ますことが困難になった状況をいう。そうなるとお互いの駒に点数をつけて比較するのだ。玉を除いて、飛車と角は5点、金銀桂香歩はそれぞれ1点として数え、(盤上・持ち駒問わず)双方ともに24点以上あると、引き分けとなって先後を入れ替えて初手から指し直す。
前記の木村―菅井戦は、双方ともに敵玉を詰ますことはほぼ不可能になっているが、点数を数えると木村は32点、菅井は22点だ。後手が先手の駒を取って点数を増やす見込みも薄いので、菅井の投了となった。
最近では420手の持将棋も
過去の対局では、どのような超長手数の激闘があったのだろうか。
まず、比較的最近の一局を挙げると平成30年2月27日に行われた竜王戦の牧野光則五段―中尾敏之五段戦で、総手数420手にて持将棋成立というものがある。この一局は平成29年度の将棋大賞において名局賞特別賞を受賞したが、中尾は引退が懸かっていたという背景もあり、凄まじい熱戦が繰り広げられた。点数がぎりぎり足りない状況が続いた中尾が死力を尽くして24点を確保し、持将棋に持ち込んだのだ。
「決していい内容ではお互いなかったと思います。でも、お互い全力を尽くしての400手超え。今年引退した戦友に敬意を表して1票入れます」とは、本局の直後に『将棋世界』で行われた特集「熱局プレイバック」に、今泉健司四段が寄稿した一文だ。