挑発的な書名とインパクトのある表紙に、圧され、緊張しながらページをめくった。そこに書かれているのが、もしかすると自分の中にも存在し、でも認めたくない日本人の排他性であることが想像できたからだ。世界に蔓延する右化傾向に嫌悪や危機感を感じながら、それが身近な団地で起こっているとすれば、自分はどのような感情を抱くのか。それを突きつけられる気がした。
しかし、読後にやってきたのは、どちらかというと安堵、もしくは希望だった。
著者は団地をめぐる光と影を追いながら、団地が先取りする未来、これから日本が確実に直面することになる外国人との共存、そして共生の可能性を探し求めている。
この本が改めて明らかにしているように、団地はまるで時代のリトマス試験紙のように世相に反応してきた。
高度経済成長期に豊かさの象徴となった団地族。画一化の憂鬱を象徴的に描いた日活ロマンポルノの団地妻。過疎化や高齢化による孤独死。しかし震災後はコミュニティの重要性が再認識され、若い世代でちょっとした団地ブームも起こった。
そして次は移民。
団地は入居審査が収入制限くらいで国籍を問わないため外国人が住みやすい環境にある。政府が今年4月に入管法を改正し、単純労働に該当する業務にも外国人受け入れを開放したことにより、今後、外国人の移住者が一気に増える。そして住居として団地が選ばれる可能性が高い。またしても団地は社会の最前線に立たされる。
著者は、団地という社会の縮図のような空間から、あり得る日本の未来をあぶり出そうとしている。
パリ郊外の団地のように移民の受け皿となり、孤立や対立が過度に進む未来。
チャイナタウンのように強靱なコミュニティにより地域内に独自の経済圏を形成するパターンもある。
人口減少が急激に進み廃墟化する団地もあり得るかもしれない。
この本で紹介されている埼玉の芝園団地では現在、半分が外国人。さまざまな共存のための試みが行われ、著者が伝えてくれるそのプロセスは感動的だった。そして今後、高齢化による日本人の減少に伴い外国人率は高くなるだろう。その時、日本の社会はその団地を積極的に受け入れることができるか、それとも脅威と感じてしまうのか。
週末、この本をガイドブックに、芝園団地に足を運んでみた。日本語と中国語を混ぜて話す子供たち。中国語のメニューだけの店。今まで日本では感じたことがなかった文化が混在するワクワク感、同時に自分とは異質の文化が一気に押し寄せてくることへの不安感、これらが入り混じったものが、そこにはあった。好むと好まざると、おそらくこの未来がやってくる。
やすだこういち/1964年、静岡県生まれ。フリージャーナリスト。『ネットと愛国』で講談社ノンフィクション賞、「ルポ 外国人『隷属』労働者」(「G2」掲載)で大宅賞雑誌部門賞を受賞。『ヘイトスピーチ』『「右翼」の戦後史』など著書多数。
ばばまさたか/1968年、佐賀県生まれ。建築設計事務所「Open A」代表、公共R不動産ディレクター、東北芸術工科大学教授。