米中貿易摩擦が新たな展開を見せた。米政府は5月15日、中国通信機器大手ファーウェイに対し、実質的に米企業との取引を禁止する措置を発表した。もし厳格に実行されれば、ファーウェイは業務のほとんどがストップする。日本でいうならば、トヨタ自動車が他国の規制で営業停止するようなインパクトだ。米中貿易摩擦、いや米中貿易“戦争”はさらに激しく、そして先が見えない地点へと進みつつある。

 昨年末にファーウェイ創業者の娘である孟晩舟副会長がカナダで逮捕された事件以後、ファーウェイは米中貿易摩擦の焦点の1つとなってきた。問題を複雑化させているのは、現時点では、ファーウェイが故意で行ったセキュリティリスク(情報流出やバックドアの設置など)の証拠は何一つ見つかっていないという点だ。孟副会長の逮捕もイランへの違法輸出に関する容疑であり、セキュリティに関するものではない。

「ファーウェイはやろうと思えば情報を盗む能力がある」「中国政府が情報を盗めと指示すれば、中国企業は逆らえない」ことがファーウェイ・バッシングの根幹であり、実際に証拠もないのに国家を代表する企業を潰しかねない規制を導入する米国に、中国が反発するのも無理からぬところだろう。

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ファーウェイは海外企業から670億ドル(約7兆円)前後の部品を調達。米国から年間100億ドル規模の部品を輸入している ©AFLO
5月8日、カナダ・バンクーバーの裁判所に出廷するファーウェイの孟晩舟副会長 ©AFLO

グーグル、クアルコム、NVIDIA……ファーウェイに不可欠の米企業

 15日に発表された規制は2つある。1つは大統領令だ。米企業に対し、米国の情報通信インフラに脅威を与える可能性がある企業との取引を禁止するものだが、名指しこそされていないもののファーウェイを筆頭とする中国通信機器メーカーを対象としたものとみられる。

 もう1つは米商務省のエンティティ・リストにファーウェイが追加されるとの発表だ。エンティティ・リストとは米商務省産業安全保障局(BIS)の輸出管理規則に基づくリストで、大量破壊兵器拡散の懸念がある事業体、安全保障や外交政策で米国の利益に反する事業体が掲載される。掲載企業に米国製品を輸出する場合には事前の許可が必要となり、違反者は処罰される。事前許可という手続きがあるといっても実際に許可される見込みは薄く、実質的な輸出禁止だ。第三国企業、例えば日本企業が米国製品を入手してエンティティ・リスト掲載企業に再輸出する場合にも罰則の対象となる。

今年発売されたフラッグシップ・スマートフォン「Huawei P30」  ©AFLO

 ファーウェイは電話会社向けの基地局設備、法人向けのネットワーク機器、スマホなど消費者向け端末を三大事業としているが、現状ではいずれの製品にもクアルコムやNVIDIAの半導体やグーグルのソフトウェアなど米国の製品、技術は欠かせない。昨年4月にはファーウェイと並ぶ中国通信機器大手ZTE(中興通訊)がやはりイランなどへの違法輸出容疑で米企業との取引を禁止されたが、その際にはほぼすべての事業がストップし、ZTEは破綻寸前にまで追い込まれた。