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槇原敬之50歳に 薬物復帰から平成一のヒット曲『世界に一つだけの花』を生むまで

2019/05/18
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「世界に一つだけの花」のヒントは“お釈迦様のひと言”

 槇原がSMAPに提供し、平成を代表する曲となった「世界に一つだけの花」も、まさに「いい話を音楽という形で翻訳して」生まれた。2002年にアルバム『SMAP 015/Drink! SMAP!』に収録され、翌03年にシングルカットされて大ヒットした同曲のヒントになったのは、釈迦が生まれてすぐに語ったとされる「天上天下唯我独尊」という言葉だ。仏教系の幼稚園に通っていた彼は、この言葉を「俺がこの世で唯一無二の存在であり、ナンバーワンだ!」という意味に解釈していたが、あとになってそれは違うと気づく。釈迦が言いたかったのは、「この宇宙に私の命はたった一つだけで、それはあなたも同じ」ということではないか。そう考えたら、この言葉は「一つしか存在しないもの同士、尊敬の気持ちで人と人がつながりあっていけるだろう」という教えなのだと悟ったという(※5)。

オリコンが発表した「平成30年シングルランキング」で1位を獲得した「世界に一つだけの花」。累積売上は312.8万枚

 もっとも、そのヒントはすぐに得られたわけではない。じつはSMAPにはその前に1曲つくったものの、ボツになっていた。締め切りまで残された時間はあとわずか。もう書けないとふて寝したが、朝方、ハッと目が覚めると一転して書ける気がした。このとき「後ろから波がワーっとやってくる感じがして、もう乗るか乗らないかしかない状態」になった彼は、心を決めてそれに乗ると、そのあとはまるで紙芝居のように歌の場面が、次々と頭のなかに浮かんできたという。槇原いわく《僕は本当にその映像を書記していくだけでした。サーっと二十分くらいで歌詞を書き上げたんです》(※5)。

1999年8月に覚醒剤所持で逮捕されている

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「世界に一つだけの花」が生まれる背景には、その3年前の1999年に、覚醒剤所持で逮捕され、活動自粛を余儀なくされた体験も無関係ではない。この期間のことを槇原は折に触れて語っている。あるインタビューでは、《そこで思い知ったんですよ、“身の程”みたいなものを。でも、それがなかったら、勘違いしまくって“最低な人間”になっていたと思いますね》と省みている(※7)。