巨人のスコット・マシソン投手が334日ぶりに東京ドームのマウンドに帰ってきた。来日8年目の右腕は昨年7月、左ひざの手術のために戦列を離れると、オフには感染症のエーキリア症を発症。40度近い熱が48日間も出続けるなど、選手生命すらも危ぶまれるような状況から見事に復活を遂げた。
実は、外国人選手の復活劇をみられることはあまりない。基本的に、彼らは待ってもらえない立場にあるからだ。ギャラが高い代わりに、少しでも結果が出なければ、すぐにクビの危機が迫る。それがいつの時代も変わらぬ助っ人外国人の立場だ。
ただ、マシソンについて言えば、元々「日本で育てる」ことを念頭に置いて獲得された選手だった。来日1年目の2012年、キャンプに合流した当初はかなり粗削りな投手だった。実戦初登板の紅白戦で加治前に頭部死球を与えて病院送りにしてしまう。さらに、クイックや牽制は苦手、ボークはとられる……。日本にやってきた外国人投手が一度は苦しむ課題をいきなりフルコースで味わう姿に、これはあまり長くないかもな、とみていた報道陣は多かった。それでも球団関係者は「マシソンは必ずチームを助けてくれる選手。長い目で見ていくつもり」と余裕を見せていた。その期待に応えるように、マシソンは球界を代表するリリーバーに成長していく。
無名の外国人投手が来日して「覚醒」するとき
無名の外国人投手が日本に来てブレークする例は枚挙にいとまがない。日本人打者や日本のマウンドとの相性、環境への適応などさまざまな要因が考えられるが、一番は「特別扱いをされること」ではないだろうか。どこの球団でも、ドラフト下位入団のピッチャーや、ある程度年齢がいっているのに実績がないピッチャーは投手コーチからあまり相手にされない。……というと語弊があるが、じっくりと指導を受ける機会に恵まれないのが現状だ。
どの球団も支配下選手70人(+育成選手)のうち半分近くが投手。ブルペンでよっぽど目立つボールを投げてアピールしないと埋もれてしまう。2軍投手コーチが一番優先するのはケガや不調で調整している1軍投手、次がドラフト上位入団のホープ。彼らもプロだから1軍で使える投手を送り出さないことには自分のクビが危ないのだ。モノになるかわからない一山いくらの選手にかかわっている時間は物理的にもない。そういった選手は実戦の機会もろくに与えられず、素質が花開くこともなく、「1軍出場なし」のままユニホームを脱ぐ。米国の現状はわからないが、似たようなものではないだろうか。マシソンがフィリーズに入団した際のドラフト順位は17巡目、全体でいえば509位。それでも4年目にはメジャー昇格を果たしているから大したものだが、決してトッププロスペクトというわけではなかったはずだ。
ところが、米国では有象無象の一人だった投手も助っ人として来日した瞬間立場が変わる。限られた枠と大枚をはたいて獲得した外国人投手にはドラ1以上の期待がかかるし、登板機会もしっかりと与えられる。コーチもちゃんと練習を見てくれるし、メカニックの部分のアドバイスももらえる。そうした環境ともともと持っていた才能が化学反応を起こした時、「覚醒」が起きるのだと思う。阪神で来日10年目を迎えたメッセンジャーが久保康夫コーチとの出会いによって目覚めたように、マシソンも豊田コーチや川口コーチの指導を受けながら、一気に飛躍していった。
2018年には外国人選手としては球団史上初めて、投手キャプテンにも任命された。復帰登板の際に敵味方関係なく沸き上がった歓声は、マシソンが日本球界に残してきた足跡の大きさを示すとともに、彼自身の成長過程をファンが共有していた、という側面も大きいはずだ。