「東京五輪で引退」の夢
そのマシソンは巨人と新たに2年契約を結んだ2017年オフ、カナダメディアの取材に注目の発言をしている。
「この2シーズンが僕のプロ野球選手としての最後の2年になる。子どもたちは、親の存在が一番大事な時期に差し掛かっている。それに、僕が40歳になったとき、子どもたちはすでに大きくなっているだろう。そのときに彼らの成長のほとんどを見逃してしまったな、と思いたくないんだ」
ちなみに、男手一つでマシソンを育てた父ダグさんはカナダを代表する野球指導者としてメジャーに何人もの選手を送り込んでおり、現在もダイヤモンドバックスのスカウトとして活躍中だ。自身も親子鷹で父を深く尊敬するマシソンにとって、子どもたちの存在はきっととても大きいものなのだろう。報道によると、マシソンは、今オフの病気療養中も、長男レーン君のクリスマスコンサートを見るために、自ら点滴を取り外して会場に駆け付けたこともあったという。愛する子どもたちの成長過程を共にするために、そろそろ家族の元に帰ることにしているのかもしれない。
そんなマシソンの最後の夢が東京五輪のマウンドだという。
マシソンはとても愛国心の強い男でもある。数年前、とある地方球場で、練習から引き上げるマシソンにファンからサインを求める声がかかった。が、そのファンがサインを求めていたのはなぜかアメリカ国旗だった。
「Oh! I’m CANADIAN」。温厚なマシソンがかなり困った顔をしていたのが印象的だった。間違えてしまったファンも別に悪気はなかったと思うが、メジャー時代も含め、カナダ代表として3度のWBCに出場しているマシソンにとっては「カナダを代表して日本でプレーをしている」という意識が強いのだろう(ちなみに、かれのTwitterアカウントのプロフィール欄にはしっかりと「Proud Canadian」の記載がある)。
カナダ代表として東京五輪に参加する夢について、マシソンはこんな表現をしている。
That would be icing on the cake
icing on the cakeはケーキにデコレーションを加える糖衣のこと。転じて「さらなる喜び」を指す慣用句だ。素晴らしかった野球人生に、東京五輪で「さらなる喜び」を――。家族を愛し、祖国を愛し、ジャイアンツを愛する心優しき好漢マシソン。彼の長い旅路が、ハッピーエンドで終わることを願ってやまない。
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