自らの信仰を試される修練の場
そしてオリックスファンには試合毎に、自らの信仰を試される場も用意されている。それはオリックスファンの聖地であるホーム球場、京セラドームの目の前にある「ドーム前駅」だ。この駅はよりによって大阪難波駅から尼崎駅を結ぶ「阪神電鉄」なんば線の駅なのである。
そしてもちろんここでも阪神ファンは空気など読もうとしない。オリックスの聖地の最寄駅であるにも関わらず、駅構内には、これでもか、というくらい阪神タイガースの宣伝ポスターが貼られている。言うまでもなく、そこにはオリックスの選手のポスターは一枚もない。だからこそ、敗戦の日の電車は辛い。糸井、西、久しぶりやな。どうしてお前らそこにおるんや。いじめられてないか。いつでも帰ってきていいんやぞ。帰ってきたいやろ。帰ってこいよ。
神戸に勤務地を持つ筆者の場合、この駅から、神戸の中心地である三宮行きの電車に乗って家路に向かう。何枚もの阪神の選手のポスターに囲まれながら、電車が尼崎から三宮へ向かう阪神本線へと入った頃、家路に向かうオリックスファンは一斉にスマートフォンをチェックする。次の停車駅は甲子園駅。試合が行われていれば、そこから阪神ファンが大量に乗ってくる。だから、ちょっとした準備が必要なのだ。そうかあいつら今日は逆転負けしたのか。これはだいぶ苛立っているかもな。
そして心優しいオリックスファンは思う。そうやな悔しいな。でもな、俺たちは知ってるぞ。いつかきっと良いこともあるって。だから落ち込むな、一緒に頑張ろう。お前らは俺らのことなんか気にしてないかもしれないけど、俺たちはお前らのこともちゃんと見ているからな。さて、少しずつ詰めて、あいつらが乗れるようにスペースを空けてやるか。お年寄りもいるだろうから、席を立って空けておかないと。長いファン生活を苦難の中、ひたすら奇跡だけを信じて生き伸びてきたオリックスファンの心の中には、「寛容」の精神が深く息づいている。
しかし、そう言うオリックスファンの細やかな気遣いに彼らが気付くことはない。そうして家に帰って、CSのプロ野球ニュースを見る。今日の試合は良かったな。でも、良いプレーも沢山あったし、若手も順調に伸びているから、心配ないやろ。しんどいシーズンやけど、なんとかなるはずや。そうや頑張れよ、阪神も。でも交流戦はこのまま3連勝させてもらうから。また、座席譲ってやるからそれで勘弁してや。
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