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爆笑か、失笑か……西武・熊代聖人、試合前の“訓示”に対する試行錯誤

文春野球コラム ペナントレース2019

2019/06/18

「みなさん、いや、お前ら、いいか〜……」

 このフレーズに、ピンときた方も少なくないかもしれない。昨シーズンから始まった、ホームゲーム時に行われる、熊代聖人選手による恒例の“訓示”の出だしの常套句である。

 この“訓示”の秀逸さについては、昨年9月にこの文春野球でも紹介させていただいた。

 その盛り上げが、チームの10年ぶりリーグ優勝に一役買ったとして、オフシーズンにはテレビ各局の人気番組にも出演し、実際に披露。すっかり全国区となった。

 優勝の験担ぎとして、今シーズンも引き続き、ホームゲームのセカンド・アップ後に必ず行われている。果たして、昨年からの変化はあるのだろうか。周囲からの評判はいかがなものか。ずっと気になっていた。

“訓示”でチームを盛り上げている熊代聖人 ©時事通信社

“影のシナリオライター”不在で悪戦苦闘の日々

「銀さんって、やっぱりすごいなぁと思わされています」

 熊代選手本人に直撃すると、真っ先に返ってきたのは、昨季までのチームメイト炭谷銀仁朗選手(FA権を行使し、今季巨人へ移籍)への追憶の言葉だった。というのも、連日笑いに包まれていた昨年の訓示、その内容の多くは、炭谷選手の助言をヒントにしていたからだ。その、“影のシナリオライター”がいなくなり、今年は「本当にネタがないんです」。悪戦苦闘が続いているのだという。ましてや、あれだけ話題になり、注目を集めたことで、チームメイトたちが求めるハードルも相当上がっている。「最近、みんな全然笑ってくれないんですよ」。人知れずヘコんでいることも多いそうだ。

 そんなある日、巻き返しを図るべく千載一遇のチャンスが巡ってきた。6月11日からの3連戦、対戦相手が巨人だった。「絶対に、銀さんに聞いてきます!」。アドバイスとネタを提供してもらおうと、意気揚々と名脚本家の元へ向かったが、結果は「あかんかったです」。撃沈に終わった。せめて、そのショックをネタにしようと、早速その日の訓示でエピソードとして披露することにした。

「みんな、いやお前ら、聞いてくれ。去年まで“ゴーストライター”といわれていた炭谷銀仁朗に、ちょっと(訓示の)アドバイスを聞きに行ってんねんけど、笑いながら『ないってー』って言ってたわ。『ない』ってなんやねん!」

「…………」

 残念ながら、期待した笑いは起こらなかった。

 こんな風に失笑に終わろうとも、次の日も、また次の日も、熊代選手は毎日変わることなく輪の中心に立ち続けている。実は、そこには「やりきる、という強いメンタルを見せつけていきたい」という強い信念が隠されている。

毎日同じテンションでみんなの前に立ち続けるということ

 内容がウケた、ウケなかったももちろんあるが、それ以上に、一人の人間である。いくら元気印が専売特許といえども、日々生きていれば、心身ともしんどい日があるのも当然だ。時には、「今日は一人でひっそりしていたいなぁ、と思う日も、正直あります」。それでも、そんな様子は微塵も出さず、常に同じテンションで訓示を告げている。「それは、みんなのおかげでもあるんですよね。僕だけではなく、逆に、聞く側にも、『聞きたくない』という日があると思います。でも、みんなが『やるんでしょ』みたいな雰囲気を作ってくれているので、『行かなあかんな』と思えます」。

 また、もう1つ支えとなっているのが、尊敬してやまない先輩の存在だという。「栗山(巧)さんが、よく『良い時にしろ、悪い時にしろ、いつも一定の同じ状態で極力いられるように』と言っているんです。実際、栗山さんは、練習でも毎日アーリーワーク(早出練習)の前からしっかりと体を動かしていたり、姿勢で見せてチームを引っ張ってくださったり、常に変わらないので本当に尊敬します。僕も、野球ももちろんそうですし、それ以外でも、グラウンドに出たら、毎日同じ気持ち、テンションで極力いられるようにと思っています。その1つが訓示ですね」。

 こうした『毎日同じテンションでみんなの前に立ち続けている』姿を、「本当にすごいと思う」(岡田雅利選手)、「自分じゃ絶対にできない」(駒月仁人選手)など、密かに他の選手たちも賞賛している。その意味では、言葉以上に、姿勢こそが最高の“訓示”となっていると言っていいだろう。