「全員が戦力」。
就任時から、辻発彦監督は言い続けている。当然ながら、プレー面での意味合いが最も強いことは言うまでもない。だが、この“戦力”という言葉には、他の要素も大いに含まれている。それを証明している1人に、熊代聖人選手がいる。
今季で7年目のシーズンを迎えているが、入団時から明るく、イジられやすいキャラクターで、“ムードメーカー”としてチームメイトからもファンからも親しまれ続けてきた。「ムードメーカーって、目に見えないものではありますが、本当にチームの役割の1つでもあると、僕は思っています。もちろん、一番いいのはプレーで貢献できることです。でも、その次には、雰囲気を盛り上げたり、ベンチで声を出すだったり、プレー以外でも、チームのためにできることがたくさんあると思っているので、できる限りそういうことも率先してやりたいなと思っています」。本人も、一軍で生き残るための大きなセールスポントだと自負している。
試合前に繰り広げられる『熊代劇場』
その武器を、今季は大いに発揮している。ホームゲームの際、両軍の全体練習が終わると、“セカンド・アップ”とよばれる試合へ向けたウォーミング・アップが行われる。その最後に、選手全員が集まり、輪になる。そこで繰り広げられるのが、『熊代劇場』だ。自身が「訓示」と称する見せ場の一幕。毎回、熊代選手から、チームの士気を高めるためのありがたい(?)お言葉が披露されるのである。
試合数も120試合を超え、相当数の“訓示”という名の活気づけトークを重ねてきた。そこで、「ご自身の中で、ここまでで『これは、秀逸だったな〜』と、自負する内容は?」と、尋ねてみた。すると、「『動物シリーズ』ですかね。特にライオンの話かな」との答えが返ってきた。
「みなさん。ライオンって、どうやって狩りをするか知ってますか?」まず、問いかけから始めるのだという。そして、いよいよ本題へ。「ライオンというのは、群れで狩りをするんですよ。僕たちは、ライオンズ。そうです、みなさんライオンです! ライオンの中には、弱いライオンもいるんですよ。言うたら、それは僕なんです。でも、いつも僕がこうして強くいられるのは、チーム一丸、みんなと一緒になって狩りができているからです。だからみなさんも、打席に立ったら1人1人ですが、チームで戦っていけば、“百獣の王”。負けることはないんですよ。そのことを忘れないで、さぁ今日も行きましょう!」。ちょっとしたうんちくで関心を引きつけ、自虐ネタで笑いをとり、野球やチームに結びつけて、最後は気合いが入るように持っていく。まさに、理想通りの“訓示”だったと、自画自賛した。
もう1つ、紹介してくれたのが、駄洒落バージョン。相手の先発投手の名前にひっかけることも少なくないと言うが、その中の1つで、現在リーグ最多勝をマークしているマイク・ボルシンガー投手(千葉ロッテ)との対戦時の言葉だ。
「今日の先発は、ボルシンガー。『僕シンガー』言うてますわ。歌ってますよ。でも、いいですか、みなさん。今日は打って、打って、打ちまくって、マウンドから降りる時に、【蛍の光】を歌わせてやりましょう!」
聞いているこちらも、思わず「上手いですね!」と、絶賛してしまった。