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「腕がちぎれるくらい……」 ヤクルト・石川雅規の鬼気迫るピッチングに、僕は祈ることしかできない

文春野球コラム ペナントレース2019

2019/06/19
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石川の奮闘に、後輩たちが何も感じないはずがない

 翌日、録画していた前日の試合中継を見返してみた。改めてよみがえる石川の力投。3回裏二死一、三塁のピンチではコンタクトレンズがずれたままで投球し、山川穂高をサードゴロに打ち取った。この場面では解説の若松勉氏が、「タイムをかけて目薬を点した方がいいですよ」と何度も心配そうに語っていたのが、若松さんらしい優しい気遣いだった(笑)。

 改めて、8回裏の西武の攻撃シーンをじっくりと見る。一死一塁の場面で、秋山翔吾にヒットを打たれたところで、石川はマウンドを降りた。91球の粘り強い投球。同じ軌道で、さまざまな変化球を投げ分ける芸術的なピッチング。39歳、プロ18年目らしい、実に老獪なピッチングだった。その後、テレビ画面にはベンチで戦況を見守り、2番手の梅野に声をかけ続ける石川の姿がしばしば映し出された。

 これは勝手な想像にしかすぎないけれど、石川は自身の代わりにマウンドに上がったプロ3年目の梅野に対して、「大変な場面でマウンドを託してすまない」という自省の念にかられていたのではないだろうか? マクガフが中村に逆転打を喫したときには、自身の勝ち星が消えたことよりも、チームのピンチがさらに広がっていることに対して、本気で悔しがっていたのではないだろうか?

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 冒頭に記したような、僕の「祈り」はまったく功を奏すことはなく、一ファンの無力さを改めて痛感するだけだった。この日、ヤクルトは勝った。泥沼の16連敗の傷も癒えつつある。チーム状態も少しずつ向上しているように思う。チームが本当の「常勝気流」に乗り、上向いていくためには、もっともっと石川に勝ちがつくことだ。粉骨砕身で投げ続ける石川の姿を見て、小川泰弘、原樹理、ブキャナンら他の投手は何を思うのか? これで、何も感じないようなら、プロ失格だ。石川がもたらす化学変化にも、僕は期待している。

 6月5日、札幌ドームでの北海道日本ハムファイターズ戦では8回を無失点で抑え、チームに交流戦初勝利をもたらした。続いて登板したこの日の西武戦でも、8回途中まで投げて山賊打線を自責点2に抑えた。交流戦に突入してからの石川は絶好調だ。今週末の千葉ロッテマリーンズ戦でも、先発の機会が訪れるだろう。鬼気迫る石川のピッチングをぜひ、僕は神宮球場で見届けるつもりだ。おそらくこの日も、僕はライトスタンドから祈るだろう。「頑張れ、石川! 頼むぞ、石川!」、と。そして、もう一つ。「どうか、腕などちぎれませんように」、と。

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