犯人の正体はなぜ暴かれたのか
FBI特別捜査官の供述書によれば、2年に及ぶ捜査の末、関与が突き止められたのは23~31歳のドイツ人の男3人組と、その下で働くブラジル人だった。ひとりはインターネットの契約名義が母親のままのスネかじりで、いずれもマフィアとは縁遠いITオタク。正体が暴かれたきっかけもゲームだったというから、日本のオタクのイメージとあまり変わらない。
ミスをしたのは3人組の1人としてWSMの管理運営を手がけ、「The One(あいつ)」の通称で知られたフロストだ。WSMが開設される直前の2016年、趣味のゲームを購入する際に、後年WSMで使うことになる仮想通貨の関連口座から送金してしまっていたのだ。
米国当局はWSMの仮想通貨の関連口座の入出金を洗ううちに、この送金記録を発見。しかもこの取引の際、フロストは実名が記載されたメールアドレスを使ってしまっていたことも見逃さなかった。
ほかの2人も、ドイツ警察のインターネットの盗聴技術などによって特定された。もっとも間が悪かったのは、WSMの広報担当で、取引でトラブルが起きた際のトラブル・シューターとして3人組のもとで活躍していた、ブラジル人でITオタクのマルコスだったかもしれない。
始まりは2017年。WSMで自信をつけたであろうマルコスは、同類サイトである「ハンザ」にも自分を広報担当として売り込んだ。
だが、それは考え得る限り最悪のタイミングだった。ちょうどそのとき、ハンザは密かに捜査を進めていたオランダ警察に乗っ取られ、大規模なおとり捜査の拠点となっていたのだ。自分を売り込んだ先は運営者を装うオランダ警察だったわけだ。