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松原 hontoでは「全巻無料」という施策をやっています。「ベルサイユのバラ5日間全巻無料キャンペーン」では、1万3000人にダウンロードしていただきました。その中の4000人がこのキャンペーンをきっかけに電子書籍に触れていただいたお客様でした。これまで電子書籍を読んだことない人たちに、“懐かしさ”を提供することで、改めてコンテンツの魅力、および電子書籍の魅力を伝えられたのではないかと思います。

 

柳井 編集の人に聞くと、ひと昔前はある作家がヒット作を出すと、その作家の別の本もみんな売れたのに、最近は一つの作品がヒットしても他の作品まで波及しなくなってきたというのですが、元リアル書店員の矢部さんもそんな風にお感じになりますか?

矢部 確かに過去の作品まで遡って読んでくれるような読者が減ってきているというのは、紙の書店にいるときから感じていました。例えば、直木賞を受賞した作家でも、受賞作は売れますけど既刊本はそこまで売れないというか、読者がついてきてくれなくなりましたね。

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柳井 作家の名前が一番の看板だった時代は終わったということかもしれませんね。

紙の本に比べると電子書籍はフェアとか割引き、ポイントバックなど、販促がきちんと行われているようです。紙のリアル書店の場合、読者が店頭に来ればPOPがあったり棚のいい場所に置いてあるということ自体がPRになるわけですが、読者に直接語りかけてくる販促ってないですよね。

 私はもともとIT系でゲームの営業や広報をやっていた人間ですので、紙の本が出る時に販促はどういうことをやるのですかと尋ねたら、「新聞・雑誌や書評家に献本するぐらいで、それ以外は特にありません」という答えで、驚きました。ゲーム業界だと何ヶ月も前にデモ版を作るなど、事前にいろいろやるわけです。出版社もリアル書店も、もっと売れていた時代のやり方を今も引きずっているんじゃないでしょうか。

 

矢部 ごく最近になって書店の危機感が高まってきて、一生懸命POPを書いたり、本屋大賞みたいな企画を立てたりということが出てきたわけですよね。

 これまでは、本屋さん側からしても当事者意識が持ちにくいというか、持ってなくてもよかったんだと思います。お店で待っていればお客様がきてくれる時代だったということですね。最近になって、さすがにそれでは難しくなってきて、版元さんに「ちょっと早めに情報ください」とか、「どうやったら売れるか一緒に考えましょう」というような、前のめりな感じが出てきたのかなと。