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ノルマを達成できない部下の妻を呼び出して……本当にあった“怖いパワハラ”

パワハラ防止法が成立した今、振り返りたい

2019/06/14
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厚労省ではパワハラを6類型に分類

 では一体パワハラとはなんであろうか。今回の法律では、「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動」と定義され、また厚労省はHPはそれを「身体的な攻撃」「精神的な攻撃」「人間関係からの切り離し」「過大な要求」「過小な要求」「個の侵害」の6類型に分類している。

 昨年9月にスルガ銀行の不動産投資向け融資にまつわる不正に関する調査報告書が開示され、過大なノルマとそれに応えるための不正行為の実態が詳らかになっており、その読み応えが話題となる。そこにはパワハラについての証言もあり、せっかくなのでここにある実例のいくつかを「6分類」に当てはめてみる。

「ものを投げつけられ、パソコンにパンチされ、お前の家族皆殺しにしてやるといわれた」たとえ紙でもなんでも投げつけるのは《身体的な攻撃》にあたるので、この場合は前段は《身体的な攻撃》で、後段は《精神的な攻撃》になろうか。「休み前金曜日に、『月曜までに案件とってこい』などの指示」は《過大な要求》となる恐れがあろう。

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「毎日 2~3 時間立たされて詰められる、怒鳴り散らされる、椅子を蹴られる、天然パーマを怒られる、1ヶ月間無視され続ける」にいたっては、前から順に精神的な攻撃・身体的な攻撃・個の侵害・人間関係からの切り離しと、わずか57文字に4類のパワハラを含む有様である。

パワハラの連鎖は不正につながる

 このスルガ銀行の調査報告書に既視感をおぼえてしまうのは、粉飾決算の東芝の場合と似ているからだ。業態を異にする2社だが、スルガ銀行では「ストレッチ目標」、東芝では「チャレンジ」と呼ばれる、普通にやっていたのでは達成のしようのない数字目標の押し付けが常態化していた。そうした土壌のもとで、不正とパワハラのスパイラルが起きている。

©時事通信社

「下に甘い」と上の者に思われるのを恐れる。それが会社員の性(さが)である。そのため上から押し付けられた数字を、そのまた下へと押し付けていく。このような、無理をしてでも数字をつくらせようとするパワハラの連鎖は、その圧力から逃れようとおもうあまり、不正をしてでも数字をつくろうとすることにつながっていく。くだんの銀行の場合でいえば、無理に「ストレッチ」しているため、行員たちは「釣り堀に魚が10匹いないのに10匹とってこいといわれる状況」(社員談)に陥る。それでも10匹取れというのだから、不正に向かってしまう。