先行き不透明な時代、正解がない時代に子どもたちをどう育てればいいのか。
『世界7大教育法に学ぶ才能あふれる子の育て方 最高の教科書』はモンテッソーリ教育、シュタイナー教育など、世界を代表する7つの進歩的教育法を紹介している。
近年注目されるモンテッソーリを実践する幼稚園ではどんな教育が行われているのだろうか。東京都大田区の幼稚園の1日に密着した。

◆◆◆

 イタリアの女性医師のマリア・モンテッソーリが、精神に障害をもつ子どもを観察することで発達の法則を見出し、1907 年ローマの貧民街で「子どもの家」を開設したのがモンテッソーリ教育のはじまり。

ADVERTISEMENT

 日本ではプロ棋士の藤井聡太さんがモンテッソーリの幼稚園に通っていたことが有名です。海外では、オバマ前大統領、クリントン元大統領夫妻、イギリス王室のウィリアム王子とヘンリー王子もモンテッソーリ教育を受けていました。マイクロソフト、グーグル、アマゾンの創業者もみんなモンテッソーリ教育出身です。

地元の幼稚園でモンテッソーリ教育を受けた藤井聡太七段 ©文藝春秋

 モンテッソーリは、子どもにはみずからを成長させる「自己教育力」が備わっており、子どもはそのときどきに自分にとって必要な活動を自発的に選択することができると考えました。それを「敏感期」と呼びます。適当な活動に出会うと子どもは没頭状態になります。それを「集中現象」と呼びます。

 モンテッソーリ教育を行う教育施設では、異年齢混合クラスで、子どもたちが自発的にみずからの「敏感期」に応じた「おしごと」をそれぞれに選択して行います。その様子を見るために、「公益財団法人 才能開発教育研究財団 日本モンテッソーリ教育綜合研究所 附属『子どもの家』」を訪れました。

東京都大田区にある日本モンテッソーリ教育綜合研究所附属『子どもの家』。子どもたちは自ら好きな教具を選んで「おしごと」に取り組む

「先生が教える」を最小限にとどめる

 床に1畳分くらいのカーペットを敷いて、そのうえに哺乳類の絵が描かれたカードを並べている男の子がいました。カードに描かれた動物とおなじ動物のフィギュアを探してきて並べる「おしごと」です。色や形で判断すればおしごとは完了するのですが、その男の子は動物の名前を知りたいと考えました。

 カードの絵だけをみても何という動物かわからないものは図鑑で調べます。男の子は、イルカの仲間を調べるために、魚の図鑑をもってきてしまいました。イルカを魚だと思ってしまうことは、「幼児あるある」ですね。これではらちがあきません。そこで先生が、哺乳類も魚類も載っている「大図鑑」をもってきてくれました。すると、探していた動物が、「イロワケイルカ」であることがわかりました。

 図鑑を調べることで、フィギュアの大きさが動物の大きさを正しく反映していないこともわかりました。イルカの仲間が終わると、男の子は「ラッコも探したい!」といいだしました。図鑑のなかで、ラッコはどうやって探せばいいでしょう。

「ラッコはどこに住んでいるのかな?」

 先生がヒントをだします。

 どこまでヒントをだすのか、どんな形で提示するのか。それぞれの子どもの個性や発達段階をふまえ、その場の状況も加味しながら、先生はそのつど的確に判断します。その微妙なさじ加減がモンテッソーリ教育の教師の腕のみせどころなのでしょう。まさに職人芸です。