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「好き勝手にさせるのではなく、気持ちに寄りそう」

 すべてが子どもサイズでつくられているキッチンもあります。子どもサイズの冷蔵庫からキュウリをとりだして、子どもたちが順番に、キュウリの輪切りを練習していました。子どもサイズとはいえ本物の包丁とまな板を使いますので、隣には先生がつきそいます。

 男の子がかっこよくキュウリを切っている様子をみて、小さな女の子が寄ってきました。

「自分にもやらせてほしい」と、しぐさで先生に要求します。でも順番を待っている女の子がまだふたりもいます。

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 先生は「ほかのおしごとをして待っててね」といいますが、女の子は首をふります。「じゃあ、ここにお椅子をもってきて、ここでみていればいいからね」。先生がそういうと、女の子は満足げな表情を浮かべて、自分で椅子をもってきて、お兄さん、お姉さんの隣に座りました。

 このとき先生は順番を待つことを教えました。でも同時に、女の子の気持ちを察し、共感し、女の子が満足できる方法を提案しました。女の子は早く自分も包丁を握りたいと思っていたはずですが、先生が自分の気持ちを十分に理解してくれることに安心感を覚え、納得できたのでしょう。

 これが、子どもの好き勝手にさせるのではなく、子どもの気持ちに寄りそうということです。

こちらもモンテッソーリ教育でよく使われる教具「金ビーズ」。組み合わせて、足し算、引き算を行い、数の概念を学ぶ

まるでジブリ映画に出てくるような子どもたち

 さきほど魚の図鑑でイルカの仲間を探していた男の子は、今度は魚の体を模した立体パズルにとりくんでいました。「頭部」「胴体」など、体の部位を覚えることができるようになっています。

 その男の子の隣で、「大図鑑」のトカゲのページを眺めていた別の男の子は、馬とヘビのフィギュアをもって怪獣ごっこを始めました。これはおしごとではなさそうです。そういうことも、やはりときどきはあります。こんなとき先生は、その子に合うおしごととの出会いを演出しようと試みます。

 部屋のなかには子どもサイズの機織りもあります。女の子がひとり黙々と機織りにとりくんでいます。きれいに色を使い分け、青、赤、白、緑と、フランス国旗やイタリア国旗のような色彩の布が織りあがりつつあります。相当に時間がかかっているはず。もうこのおしごとに、何日も連続でとりかかっているのでしょう。

 お片づけの時間になると、機織りに大きな布のカバーをかけ、その日のおしごとを終えます。つづきはまた明日。ほかのおしごとにとりくんでいた子どもたちも、一斉にお片づけを始めます。テーブルはふたり一組で協力して片づけます。

 附属「子どもの家」でみた子どもたちは、まるでジブリ映画にでてくる子どもたちが現実の世界に飛びだしてきたかのようでした。いきいきと自分の人生を謳歌していると同時に無限の世界への好奇心と畏怖の念を抱いている。そして何より、勇気がある。そんなふうに私は感じました。

INFORMATION

日本モンテッソーリ教育綜合研究所 附属「子どもの家」
https://sainou.or.jp/montessori/casa/

 ●所在地:東京都大田区千鳥
 ●運営者:日本モンテッソーリ教育綜合研究所
 ●創立:1979年
 ●ジャンル:認可外幼児教育施設
 ●対象 
・幼児部……2歳半~就学前(月~金)
・小学部……小学生(週1回放課後)
・たんぽぽクラス……1歳半前後の子と親(不定期)