「『あなたにとって家族とは何ですか』という質問をグループワークでお聞きするんです。すると、機能不全に陥っている家庭ほど、お互いの絆の深さではなく、『血縁や戸籍で繋がっていること』を挙げる傾向がある。他に繋がりを示すものが見つからないからです。問題なのは、こうした機能不全に陥った家族は、放っておいても、なかなか“自然治癒”が望めないということです」(カウンセラーの中村カズノリ氏)
元農水事務次官による長男殺害事件に続き、6月16日に起きた大阪府吹田市の拳銃強奪事件は日本中に衝撃を与えた。警察官から拳銃1丁を奪った飯森裕次郎容疑者(33)の父親は、関西テレビの常務取締役だったことも大きく取り沙汰された。
自身、家族の関係性などに悩み、通り魔事件を起こす寸前まで精神的に追い詰められたという経験を持つ中村氏が説明する。
「専門的には『機能不全家族』と言いますが、主に親との関係性によって、子供が自己肯定感や他者への共感を持ちにくい大人に育ち、成人しても家族間のコミュニケーションがうまく機能していないという家族は増えています。それはカウンセリングの現場を見れば、一目瞭然です。現代における多様な家族の在り方を子供が受け止められないのだと思います。結果、親子関係が回復不能なまでに悪化してしまったケースも見かけます」
「機能不全家族」で蓄積したストレスが妻に……
例えば、30代男性のAさんも、厳格すぎる父親との関係に悩む患者だった。
「Aさんの家はお金持ちの名家でした。Aさんは小さい頃から人生観や仕事観、家族観を全面的に押しつけてくる父親のプレッシャーに耐えてきた。父親はいわば唯我独尊な人物だった。その父親像の影響もあり、Aさんは結婚後、自分のストレスを妻へのDVというかたちで発散させるようになってしまうのです。その時点で、奥様がまずカウンセリングに来られたのです。
その後、Aさんご自身がカウンセリングに来たときも、精神的には相当追い詰められている印象でした。カウンセリングやグループワークを経験するまで、Aさんは自分の父親の在り方は世間でも当たり前だと思い込んでいて、後で聞いたのですが、それ以外の家族間のコミュニケーションの方法論が、想像もできなかったというのです」