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弁護士のわたしが、痴漢に安全ピンで抵抗した被害者を支援したい理由

「正当防衛」か「過剰防衛」か

2019/06/23
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 今年の5月、あるツイートが話題になった。それは、生まれて初めて痴漢に遭って、声も出せなかった中学生に、保健室の先生が安全ピンを渡して「声出さなくていいんだよ」「次痴漢が出たらそれで刺しな」と助言するものだった。

 これに対し、ツイッターでは「傷害罪が成立する」「人違いのえん罪が起こる」「血液を媒介とする感染症のリスクがある」などの批判と、「正当防衛だ」という反批判が吹き上がった。

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 これを見ていて、まず「痴漢を安全ピンで撃退する」という話題が、ここまで盛り上がること自体に驚いた。

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 私がはじめて痴漢を安全ピンで撃退する話を聞いたのは、高校生の時だった。30年前から言い伝えられてきた方法なので、みんな当然知っていることだと思っていたのだ。

 そういえば、大学生のころ、男友達に「女の子って、1年に何回くらい痴漢に遭うの?」と聞かれてのけぞったことがあった。

「1日に4回くらいだよ」と言ったら、今度は男友達がのけぞった。

 この時の私と男友達の認識の差は、痴漢の認知件数と被害実態の差でもあったのだろう。

警視庁が東京都で認知した痴漢事件は何件?

 警視庁は、毎年、ホームページで「こんな時間、場所がねらわれる」という表題で「都内における性犯罪(強制性交等・強制わいせつ・痴漢)の発生状況」を発表している。

 法律的には、痴漢は、強制わいせつと迷惑防止条例違反の2種類だ。衣服・下着の上から触れば迷惑防止条例違反、衣服・下着の中に手を入れれば、強制わいせつとされることが多い。

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 警視庁の統計によると、平成29年中、都内で強制性交等は約170件、強制わいせつは約700件、痴漢型の迷惑防止条例違反は約1750件である。

 警視庁の統計にある強制わいせつは、痴漢に限られないが、発生場所の15.5%が電車内である。これが全て痴漢に当たると仮定すると、痴漢型の強制わいせつは、700件×15.5%=108.5件となる。

 つまり、警視庁が平成29年東京で認知した痴漢事件は合計1858.5件、1日平均約5.09件となる。